<山本敦のAV進化論 第56回>
新世代サラウンド規格「DTS:X」登場 − 特徴とスケジュールをキーパーソンに聞く
■劇場では今夏、ブルーレイは今秋からDTS:Xが楽しめるようになる
では、実際にいつ頃からDTS:Xによる新しいエンターテインメントを体験できるようになるのだろうか。まずは劇場の場合。DTSは、デジタルシネマ・サーバーの世界的なソリューションプロバイダーであるGDCテクノロジー社とのパートナーシップを新たに提携し、大手シネマチェーンを中心にDTS:X対応の劇場を一気に広げる戦略を打ち出している。アメリカ、アジア、日本を中心としたシネマチェーンと密接につながるGDCテクノロジー社との連携により、2015年の後半から対応館が一気に増え、DTS:Xを劇場で体験できるようになる見込みだ。
また後述するが、DTS:Xの持つ高い柔軟性により、劇場は既存の再生機器をファームウェアアップデートするだけでDTS:Xへ対応できる。スピーカーの配置についても、推奨の実装ガイドラインは用意されているものの、大幅なレイアウトの見直しといった大がかりな設備変更は必要ない。劇場側としては、MDAでつくられたソースが再生できること、ならびにDTS:Xのロゴを表示することというシンプルな条件をクリアすることが必要になるが、その認証プログラムについてはGDCテクノロジー社に一任されているようだ。
ブルーレイ作品については、既にDTSからベータ版のエンコーダーが出荷されており、初のDTS:X対応タイトル「Ex Machina」が米国で発表されたばかりだ(関連ニュース)。日本でも準備が進んでおり、黒川氏によれば「今年の秋頃には日本でもDTS:X対応コンテンツのリリースが期待できそうだ」という。ホームシアターでは、BD再生機からDTS:Xの音声をHDMI経由でデコード機能を内蔵するAVアンプにビットストリーム出力して再生する。なお海外では、2016年を目処に、DTS:Xフォーマットで収録されたコンテンツの配信も始まる可能性がある。
なお家庭用のゲームコンソールについては、オブジェクトベースのソースをAV機器に出力するために新しいエンコーダーが必要になる。エンコーダーのDTS:X対応アップデートについては、2016年中の実現に向けて準備が進行しているとのこと。
■ホームシアターにおけるDTS:Xスピーカー配置のルールは極めて自由度が高い
DTS:Xのスピーカーマネージメントは、音の割り当てを設定するための最大16の“ウェーブフォーム”と、別途2つのLFEチャンネルで構成されている。ウェーブフォームは「チャンネルのみ」「オブジェクトのみ」、あるいは「チャンネル+オブジェクト」の3種類が選択可能で、その組み合わせを最大16のウェーブフォームに割り当てる形になる。
例えば7.1chサラウンド音声を割り当てる場合は、まずウェーブフォームを8つ使うことになり、さらに残り8つまでオブジェクトの音声が収録できるということになる。またDTS:Xではオブジェクトオーディオは必須ではなく、チャンネルベースとオブジェクトベース、あるいはそのミックスも含めたどの手法でコンテンツをつくるかは、クリエイターが自由に決められる。
DTSではDTS:Xの技術により、より没入感の高い本格的な3D空間を作ることができるとしているが、5.1chのホームシアターを持っていても、天井にスピーカーを配置するところまではとても無理という家庭も多くある。DTS:Xでは理想的な体験を得るために必要なスピーカーの個数や配置を決めておらず、アンプなど対応機器の「スピーカー・リマッピング」機能を通して、個々の環境に最適なスピーカーセットアップを行えば、従来の5.1ch環境でも“その環境に応じたベストなオーディオ”が体験できることが大きな特徴である。「DTS:Xはスピーカーレイアウトの自由度が高いフォーマットです」と堀江氏はその特徴を語る。ホームシアターの対応機器に求められているのは、突き詰めて言えば「DTS:Xのストリームをデコードできること」という極めてシンプルな条件だ。
実のところ、DTS:Xのスピーカーレイアウトには非常に簡単な決まり事が設けられてはいるそうだが、いずれか一つの「この配置でなければならない」というルールはない。その内容について、さらに詳しい説明を堀江氏が加えてくれた。「例えば『5.1ch+フロント2本』、『5.1ch+天井4本』、『7.1ch+フロント2本』などスタンダードな配置構成がありますので、当面はこちらに従っていただければDTS:Xの効果を最大限に味わっていただけると思います。天井スピーカーは必須ではありませんが、オブジェクトベースのオーディオを再現するのであれば、天井スピーカーも使った方が圧倒的に高い効果が得られると思います」。
スピーカーを置く位置についても厳密なルールはないが、AVアンプのメーカーと協議しながら最適なレイアウトの幾つかをセットアップのパターンに組み込むことで、ユーザーがDTS:Xの効果を最大化できるサラウンド環境を簡単に構築できる仕組みを作る。
このほかにもDTS:Xならではの特徴に「ダイアログコントロール」機能がある。ブルーレイの場合、サラウンドのセンターチャンネルに必ずしもダイアログ(セリフ)が収録されているとは限らず、様々な効果音もミックスされていることが多い。そのため、従来のチャンネルベースの音声ではセンターチャンネルのボリュームを上げることでセリフが聴き取りやすくはならず、かえってサラウンド空間のバランスを損ねてしまうこともあった。DTS:Xでは、ダイアログの音声をオブジェクト化してエンコードする手法により、AVアンプなど機器側でコントロールしながらセリフの音量だけをユーザーが聴きやすく調節できる機能を設けている。
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