<山本敦のAV進化論 第56回>
新世代サラウンド規格「DTS:X」登場 − 特徴とスケジュールをキーパーソンに聞く
■AVアンプメーカーは「DTS:X」をどう料理するのか
DTS:Xをホームシアターで楽しむ際のイメージがもう少し具体的なものになるよう、インタビューに同席いただいたオンキヨー&パイオニアの渡邊氏、上田氏にも話をうかがった。なお、オンキヨーはDTSとのパートナーシップによりDTS:X対応AVアンプを開発することを以前より公式に発表しており、同社初の対応モデル「TX-NR646」を日本市場向けに先日リリースしたばかりだ(関連ニュース)。発売は6月上旬で、発売後のファームウェアアップデートによるDTS:X対応を予定している。
「DTS:Xは空間表現を大切にしているサラウンドフォーマットです。同じ5.1chの環境でも、チャンネルベースのサラウンド再生とひと味違う、没入感の豊かな空間再現力が味わえるようになるフレキシビリティの高さを特徴としています」と渡邊氏。DTS:Xのセットアップ機能については、「スピーカー配置にいくつかのパターンを用意して、セットアップメニューの画面上で仮想配置した部屋のセッティングイメージをお見せながら、最適なパターンをおすすめする機能を提案したいと考えています」と展望を語る。さらに天井スピーカーを追加することで、よりリアルな3Dサラウンド環境が構築できることも訴求したいという。「5.1ch/7.1ch/2chなど基本のサラウンドセットに加えて、天井スピーカーを使う場合などいくつかのパターンを検討しながら、セットアップを進めていくようなイメージです」。
同社ではオンキヨーとパイオニアの2つのブランドのAVアンプを展開しているが、DTS:X対応はオンキヨーが先行するかたちになり、パイオニアの製品については鋭意検討中であるという。なお、既発売のアンプをファームウェア更新等によりDTS:X対応にアップグレードする施策は今のところ検討されていないようだ。
ちなみに国内メーカーのAVアンプについては、デノンとマランツが近く発売するそれぞれのフラグシップ「AVR-X7200WA」、「AV8802」をファームウェア更新によりDTS:X対応にする方針を明らかにしている。ヤマハからも今秋までには対応製品が出てきそうだ。
■dts Japanの試聴室で「DTS:X」のデモコンテンツを体験
今回dts Japanの試聴室にて、DTS:Xのサウンドを視聴することができた。スピーカー構成は天井の4チャンネルを加えた「7.1.4ch」の全11.1ch。ソースには「CES 2015」の会場で配布された、DTS:Xのコンテンツを収録するBDデモディスクを使用した。一般に販売されているパナソニックのBDレコーダーから、HDMI経由でDTS:Xのストリームをプロトタイプのデコーダーツールに送りこみ、11.1chのアナログ信号に変換してからパワードスピーカーに入力する再生環境だ。
フルCGアニメーションの『LOCKED UP』では、ジャングルの中で色んな方向から聞こえてくる動物の鳴き声がとてもリアルで、動きや位置が鮮明にわかる。ハエが周囲を飛び回る羽音の移動はとても滑らかで、音のつながりが自然。ジャングルの空間にトリップしてしまったような、自然なサラウンドの方位感に息を呑んだ。空間表現が広々としていて、残響も心地良く染み渡っていく。
もう一つ試聴した作品はSFアクション映画『ダイバージェント』。水槽に閉じ込められてしまった女性のまわりに、徐々に水が満ちていくシーンでは、泡が沸き立つ音や上下方向の立体感が極めてリアルに再現され、思わず手に汗を握ってしまう。特に高さ方向のシャープな効果音が加わることによって、情景描写の鮮明度が一段と高まる。なるほど天井スピーカーの高い効果を実感させられた。
殊に生々しさとリアリティ、音楽として捉えたときの躍動感において、DTSのサウンドは他のフォーマットにない独自の魅力があると筆者は感じている。DTSが満を持して世に送り出す渾身の新フォーマットDTS:Xの真価を、劇場やホームシアターで体験できる機会が早く訪れることを心待ちにしたい。
(インタビュー/記事構成:山本敦)