驚愕のコンデンサーイヤホンシステム
SHURE「KSE1500」開発者インタビュー。8年かけたのは「最高のイヤホン」を作るため
SHURE これは私の個人的なこだわりでもあるのですが、ドライバーの数を増やしていく手法には疑念を持っています。理論的に突き詰めていけば、ドライバー数を増やすことで得られる利点もあるにせよ、根本的な音質は改善できないと考えているのです。
ーーー 位相やクロスオーバーの問題ですか?
SHURE そういったことも含めた問題です。いかに精密に生産されたドライバーにも部品としての個体差があります。すべての個体をハンドマッチ、ひとつひとつ測定して特性の揃ったものを選び出すとしても、例えばミドルレンジだけで4基ものドライバーを搭載すれば、その4基すべての特性、音量や周波数特性を完全に揃えることは不可能です。するとリニアリティやアキュラシー、音声信号の忠実再現性の面では大きな問題となります。
ーーー 忠実性にこだわっているわけですね。
SHURE それが私のこだわりでもありますし、SHUREのこだわりでもありますし、プロシューマーも含むSHUREのカスタマーの多くのこだわりでもあります。
ですが、音楽を楽しむことにおいて、そういった忠実性にはさほどこだわらない方がいることも理解しています。ですからドライバー数を増やしていく手法や、その音を好むユーザーを否定するわけではありません。ただ我々としては、忠実性を重視するということです。そのためには1基のドライバーでフルレンジをカバーするのが理想であり、それを実現できたのがこのコンデンサー型のシステムなんです。
ーーー コンデンサー型なので必然的に、それを駆動するための専用アンプユニットとのシステムになっています。開発開始が8年も前となると、その時点では「ポータブルヘッドホンアンプを持ち歩く」などというスタイルが受け入れられている現在の様子は想像できなかったですよね。「このシステムは製品として受け入れられるのだろうか」といった不安はありませんでしたか?
SHURE 実は初期の段階では、このプロジェクトはステージ用のイヤーモニターとして完成させることを想定していました。その場合はモニターのレシーバーユニットを置き換える形になるので、それと同サイズ程度に小型化できれば問題ないと考えていたのです。ただし、こういったポータブルのマーケットができることはもちろん予想はしていませんでした。そこは幸運でしたね。
ーーー イヤーモニターとして考えられていたからということもあってか、初の「"高遮音性"コンデンサー型イヤホン」というのもポイントですね。コンデンサー型といえば開放型の印象があります。密閉型にして遮音性を高めることは難しかったのではないですか?
SHURE 本当に、すべてが困難で挑戦の連続でした。特にひとつ挙げるとすれば空気の動きの制御です。開放型なら周囲の空気が自由に動けるので振動板の動きが妨げられることはありません。しかし密閉型では閉じ込められた空気が振動板の動きの自由を妨げてしまい、本来あるべき忠実な動作を実現できません。
そこで一例としてですが、ハウジング内の耳に向いている側にポートを設置しています。これは空気抵抗を逃がすためのものです。ちなみに耳の外側にも同じような穴がありますが、そちらは低域の量感を調整する役割で設置してあります。
ーーー どちらのポートも、いちばん外側の透明なハウジングにまでは穴は開いていませんよね。ドライバー周りのインナーシェルのようなものとその外側のハウジングとの間の二重構造の空間に空気を逃がしているのでしょうか?
SHURE そうです。密閉型としての遮音性を生かしつつ音響的な課題を解決しています。