徹底的にこだわった「ちゃんとしたハイレゾ」
「けいおん!」ハイレゾ制作者に聞く舞台裏。原曲・キャラのイメージ保ちハイレゾ化
■はじめは懐疑的だった「けいおん!」楽曲のハイレゾ化
小森:僕は最初、ハイレゾ化にすごく懐疑的だった(笑)。世に出ているハイレゾを聴いても、たとえばクラシックとかジャズとか、そういうアコースティックなものについては確かに有効なのかなと思ってたんですけど、いわゆるポピュラーミュージックというものではどうなんだろう、と。
ただ、今回そういう方法で作るというので、じゃあ一応聴いてみて、本当にどのくらい違うのか確認したいな、というのもちょっとあって。
磯山:もともと収録やってたときも、色々と試してたんですよ。最初は48kHzで録ってたんですけど、途中で44.1kHzに変えたり。そうすると変わるものがあるので。
96kHzで録るという話が出たこともあったんですけど、あえてしなかったです。基本的には僕たちはロックをやるつもりでいたので、48kHzで録った方が、多少荒削りでもいいと思ったんです。それを96kHzに上げることで何ほどのことが起きるのかと。だから率直に言って、僕も小森さんと同じような考えでいたのですが。
ただ、井野さんがやってくれたのを最初に聴いたとき、「こんなに変わるんだ」と正直思いました。「うわっ!」って思った。
■マルチからアップコンしてハイレゾ化することで期待以上の完成度に
小森:正直、期待以上でした。こういう音楽でもちゃんとやればハイレゾは有効なんだな、と思いました。ちゃんと時間をかけて、全部をちゃんとやれば、確かにハイレゾの良さが感じられるなと。
ーー最初は、テスト的に作られたものを1曲聴かれたのですか?
井野:最初に、ポニーキャニオンさんがお持ちの、上の倍音を足すアップコンバーターで処理したものと比較試聴したんですよ。片やマルチで起こし直してミックスし直したものと、片や通常のアップコンかけたものを聴き比べたんですね。そうしたら歴然とした差があったので、過去の音源をすべて掘り起こして、マルチ単位で1chずつ96kHzに起こし直して、でもう一回ミックスし直したという感じなんですけど。
磯山:膨大な量だよ(笑)
井野:その当時使っていたプロツールスは5〜6年前、いやもっと古い7年くらい前のモノなので、バージョンが相当古くて。プロツールス自体もここ最近は相当音が良くなっています。
音は良くなっているのですが、その代わり使えなくなっちゃったものもいっぱいあって。プラグインとかも全く再現できないものが結構ありました。
それを一つ一つ現代の、より良いと思われるものに置き換えていって、耳で音を合わせていくという(笑)。
ーーすごい、耳で合わせるんですか(笑)
井野:これがかなり、すごい時間がかかりました。耳で合わせていって、「当時の音と印象は変わらないんだけど実は良くなっている」という絶妙なラインに落とし込むのを、このスタジオでみんなで聴きながら、一曲ずつやっていったという感じです。
実は、マルチでアップコンすることにどれだけ意味があるんだろうと、僕も最初は思っていたんです。ただ、最初に1曲テストで「GO! GO! MANIAC」をアップコンしたときに、思いも寄らないことが起きたんです。
ミックスするときって、収録した音以外にリバーブ足したりディレイ足したり、いろいろするじゃないですか。そういうミックスのときに生まれる音が、全体の3割くらいあります。それがすべてハイレゾ化されることが結構すごい効果で。スペアナで見ても上の成分がバッチリ出ています。これは相当意味があったんじゃないかと。
磯山:CDミックスって、マスタリングの時にもう一回加工したりすることもあるじゃないですか。それをそのままアップコンするだけでは到底為しえなかった音です。
自分が年だからということもありますけど(笑)、いわゆる可聴音域ではないじゃないですか。でもそれが深みになっている。聞こえないんだけどわかるというのがすごいな、と思いましたね。
小森:あと、可聴音域に影響するというのもあるよね。聞こえない音域にある音が、聞こえる音にかなり影響を及ぼすことがかなりよくわかりました。
磯山:なんだろう…。すごく漠然とした言い方ですけど、すごく精巧なプラネタリウムで見る宇宙と、本当の宇宙を見上げるときの違いという感じがします。見えないんだけど、見えるものがある。
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