徹底的にこだわった「ちゃんとしたハイレゾ」
「けいおん!」ハイレゾ制作者に聞く舞台裏。原曲・キャラのイメージ保ちハイレゾ化
■キャラのニュアンスが変わるようなことは絶対にしない
磯山:音質の部分はもちろんありますけど、アニメーションの音楽なので、キャラクターが生きるか死ぬかというのが非常に重要です。そのキャラクターから逸脱しないか、そのキャラクターが生きているように歌えているか。もちろん音質的にも最良のものを目指すんですけど、そこを一番重視して、もともと録音していましたので。
なので、小森さんにも聞いていただいて、バンドとしてのサウンドの聞こえとかをチェックしていただきました。
小森:ハイレゾにしたことによって、当然音は影響を受けるわけじゃないですか。それがたとえば「ギターの音色が明るくなった」ということならいいんですが、ボーカルの声質が変わって、キャラのニュアンスが変わってしまってはまずい、と。
磯山:それはアニメーションの音楽としての、必要最低条件ですね。それを逸脱してまで、クオリティがよく聞こえればいいというものではないので、そこが基本線ですよね。そこからいかに良いものを作るかということです。そのキャラクターの個性を保持しながら、楽曲そのものとしてクオリティを引き上げるということですね。
小森:全体としては、クオリティが上がらないとあまりやる意味がないので。
ーーあくまでアニメソングとして音の良さを追求する、ということですよね。
磯山:そうです。でも、これって、ふつうのアーティストでもあることだと思うんですよ。自分が求めている、世に出したかった音像って、ただ単にクオリティが良いだけじゃないと思うんですよね。それぞれ出したいテイストがあると思うので。そのテイストを壊さないで、いかに広げるか。…かなりギリギリまで広がったよね?
井野:はい。広がったと思います。
磯山:まあ、井野さんがそのぶん死んでたんですけど(笑)
ーーところで、1チャンネルずつアップコンしてミックスし直すというお話でしたが、実際、作業としてはどのくらい時間がかかるものなんでしょうか?
井野:まず普通にアップコンするだけで、大きいオープンエンド(オープニング曲とエンディング曲)とかだと、2〜3時間かかってその間は「待ち」という。で、それを開いてみて。
…で一回、当時のプロツールスで作業することも考えたんですよ。そうしたらいくつかの楽曲で、まずもうボイス数が多すぎて、96/24に上げちゃうと不可能ということがわかったので諦めて。やるんだったら現行の一番新しいのでやらないとムリだな、と。
そうして新しいバージョンのプロツールスで96/24に上げてみると、ミキサーの解像感とかも圧倒的に良くなっているので、明らかに音が良くなっているんですよね。変な歪み感とかジリジリした感じもなくなって。
で、そうしてバージョンを上げると、使えなくなるものがたくさん出てくるので、それを一つ一つリストアップしました。新しいバージョンが出ているものであればそれを差し込んで、当時のプロツールスを起ち上げて、パラメーターを合わせて、合うかどうか一個一個耳で聞いて確認して、という地道な作業ですよね。
磯山:気が遠くなるよね(笑)
井野:本当に、1日2曲が限界という感じでしたね。
ーーところで、今回はライブイベント「Come with Me !!」のセットリストの楽曲を頭から最後までハイレゾ化されたわけですけど、これに決めた理由は?
磯山:それはポニーキャニオンさんの意向ですよね。ちょうどライブイベント「Come with Me !!」から5周年ということもありますし。
…ただ、当時のライブのセットリストというのは僕が考えたんですけど、やっぱりそのときのライブで最善と思われるものをチョイスしているので、それを選んだのは、やはり意味があると思います。