平井CEOとは異なる、玉川氏の「WOW」
なぜソニーは「当たり前」が出来ていなかったのか? ソニーマーケティング会長 玉川勝氏インタビュー
説明会の壇上で、玉川氏はソニーのコンシューマーエレクトロニクスが現在置かれている状況をグラフを使って説明した。
「3つのコンシューマーエレクトロニクス分野の売り上げと利益の推移を、2011年度から15年度まで観察してみると、3つのカテゴリーはともに13年度から黒字化を果たしてはいるものの、売り上げは少しずつ下がっている」という。
各地域の販社ごとに、潰すべき課題を早急に見つけ、高い競争力を持つ販売オペレーションのグローバルモデルを確立。それぞれに処方をあてがっていくことが、新生ソニーマーケティングの果たすべき役割だ。
ソニー全体としては「やみくもに売り上げを追わない」という企業ビジョンを掲げてここまで来たが、「このままではジリ貧になる。だから『狙いを定めて、取れるセグメントを取りにいく』という姿勢に方向転換を図りたい」との決意を表した玉川氏は、何よりまず「販社としての基本動作を徹底すること」が大事との持論を繰り返す。
「正しい商品を、正しい価格で、正しい販路に、正しいコンディションで置けているかということ。これがまだできていない販社がいっぱいある」と指摘した。
グループインタビューに参加した記者からは「なぜ玉川氏が就任する前は“当たり前のこと”ができていなかったのか」という質問も投げかけられた。
これに対して玉川氏は、「今から20年前を比べてみると、当時ソニーはエレクトロニクスの市場に様々な商品を提案して、マーケットを作ることを使命としていた。当時は競争の相手も国内メーカーが中心だったが、今はグローバル競争の時代。さらに限られたアイテムを手に、戦略を立てて生き抜く道を切り開かなければならない。追い込まれた状況を打開するために“当たり前”を徹底していく必要がある」とし、ヨーロッパで困難な状況を打開してきたことが、ソニーが世界で闘うためのビジネスにもそのまま当てはめられるだろうと指摘した。
これからソニーマーケティング全体の事業構造を見直しながら、体質を変えていくことについても玉川氏は課題として挙げる。
正しい商品戦略とアカウント戦略を立てて、それぞれを合体させた「事業計画」を構築。販売現場を強化しながら着実に収益を上げていくためにはまず、経営の“上流”であるマネージメントができる人材を適材適所に配置することが大事であり、玉川氏は「ここがグローバルの中で最も強化すべきポイント」であると語った。
ほかにも玉川氏は、縮小均衡により販社のマインドが萎縮しつつあることについても触れながら、これを「利益ある成長へギアをシフトしていくことが重要なミッション」であるとしながら、売り上げと利益を伸ばして、各販社の活力を高めていくことも自身の役目であるとした。
「様々な施策を着実にかたちにしていくことで、結果的として数字は付いてくるという自信はある。だが、当社が定性的に目指すのはあくまで“業界ナンバーワンのオペレーション”をいかに確立するかということ。これは商品と並んでソニーが各社と差別化できる強みになると考えている」(玉川氏)。
これから玉川氏の手腕に、世界の注目が集まることになるだろう。
最後にグループインタビューの場で行われた質疑応答の内容についても、一部をご紹介しよう。
− 事業計画のテンプレートをグローバルに当てはめていくということだが、各国で色々と事情が異なる部分もあるのでは。
玉川氏:もちろん各地域からお客様のフィードバックを吸い上げて、それぞれに最適な商品を並べて戦略を立てることになる。例えばソニーのブラビアも、全世界で共通の品揃えを展開しているわけではない。オーディオもハイレゾが普及する日本と、まだミニコンポが全盛のラテンでは状況が違う。それぞれの商品戦略の中味は違うが、戦略の立て方や実行の仕方をテンプレートとして、グローバルでも徹底していくことに意味があると考えている。
− 狙いを定めたセグメントでは積極的に攻勢に出るということだが、今後拡大基調にはいつごろ乗れると考えているのか。
玉川氏:来期は今期より売り上げ・利益ともに上を目指す事業計画を立てる。今期の通期予測については今は申し上げられないが、円高の分やや目減りするか前期とイーブンぐらいになるのでは。現地通貨立てで見ると前期を上回る見込みを持っている。
− 日本国内はいま大型家電量販店が強いが、今後はどの販売チャンネルが強くなるとみているか。
玉川氏:販路の強弱、展開の仕方は国によって全く状況が異なる。例えば中国だけが突出してオンラインが強いが、その他の地域はオンラインはそうでもなかったりする。販路に関する戦略は地域に応じて最適なものを立てていく必要がある。ヨーロッパではオンライン比率がAmazonを中心として徐々に上がっている。特に売れているのは小物系で、全体の売り上げから2〜3割がオンライン。ところがテレビやホームオーディオは5〜10%ぐらいに止まっているので、商品によっても凹凸がある。北米もおそらく似た状況。中国はテレビ市場の売り上げの4割がオンラインと言われているが、中味を見ると非常に安値のものや中国ブランドのものなど毛並みの違う商品が中心に売れていたりもする。ソニーが中国でオンラインを使って、どの商品でどう展開して行くかは慎重に判断しながら進めたい。日本の場合は家電量販店の比率は少し落ちてきて、オンラインの比率がその分少し上がっている。携帯電話関連のアイテムはキャリアショップが強い。ショップの魅力を引き出せる商品、ショップならではの商品も出てきた。商品のライフサイクルによっても効果的な販路の種類は変わってくる。
− これから成長を期待する市場、商品カテゴリーは。
玉川氏:欧州のオペレーションはそこそこ安定してきた。北米は14年度から黒字化しているが、まだポテンシャルが大きいとみている。3年前に販売チャンネルをしぼって利益体質に変えたが、もう一度売り上げを伸ばす体制を整えれば、北米が最も伸びるとみている。商品はフルサイズのデジタル一眼だろう。熊本の震災の影響により、まだ需要に対する供給が追いついていないが、来年以降も成長市場と見込んで積極的に伸ばしていきたい。大型の4K/HDRテレビも期待できる。付加価値の高い商品が出てくれば、その分店頭でのデモンストレーションなど販売力の強化に力を注いでいきたい。
− 世の中はIoTにも関心が注がれているが、ソニー製品のインターネットを活かした機能やコネクティビティはこれからどうアピールしていくのか。
河野氏:グループ企業ではソニーモバイルコミュニケーションズやソニーネットワークコミュニケーションズがインターネットやスマートデバイス関連のビジネスに力を入れている。これからヨーロッパやアメリカなどが先を行きながら伸びてくる分野だと思っているが、当社としては関わりのあるソニーの製品について、Webでの情報を充実させること、ソニーストアなどのタッチポイントでの体験展示を充実させて、商品の魅力をしっかりお伝えしていくことが大事と考えている。
− ソニーマーケティングが売り場を強化して現場から得た顧客の声が、今後はソニーの商品開発にも反映されていくのか。
河野氏:国内での事例を挙げると、デジタルカメラはユーザーの声を集めて事業部への太いパイプを活かしながら次の商品開発につなげている。今後はグローバルでもそういうプロセスを構築していくことになるはず。
− ソニーストアの海外での状況について。日本では直営店を増やすのか。
玉川氏:海外で直営店があるのはアジア/中国/シンガポール/マレーシア/インドネシア/タイ/台湾/香港などアジアが中心。ヨーロッパにいま直営店がない。ビジネスパートナーを通じたソニーのエクスクルーシブストアは展開している。これからは、例えば既存の写真のエキスパートに強い販売チャンネルでソニーの売り場を強化したり、大型量販店の中に4K/HDRテレビのショップ・イン・ショップをつくることなどを積極的に行っていきたい。アメリカのベストバイでは成功事例もある。
河野氏:日本の場合も、直営店であるソニーストアのミッションはお客様の体験の場、あるいはタッチポイントである。家電量販店と販売の場として競合していく考えは元からない。現在国内に5つのソニーストアがあるが、これをしっかり機能させていきたい。大きく拡大するプランは今のところない。