哲学者と宗教学者の対談が炸裂!
黒崎政男×島田裕巳のオーディオ哲学宗教談義 Season 2「存在とはメンテナンスである」<第2回>
銀座サウンドクリエイトの恒例イベント「オーディオ哲学宗教談義」。哲学者・黒崎政男氏と宗教学者・島田裕巳氏が、音楽、オーディオについて対談するというもので、大変な人気により、2018年春、第2シーズン(Season 2)も開催された。「オーディオは本当に進歩したのか」を論じたSeason 1に続き、Season 2では「存在とはメンテナンスである」という現代社会にも通じるテーマをオーディオに焦点を当てて展開したのだった。以下にその第2回目の全容をお届けしたい。
サウンドクリエイトスタッフ 2018年春、リンから画期的なフォノイコライザー「URIKA II」がリリースされました。LP12本体に内蔵し、出力はデジタルのみというもの。これは、アナログなのかデジタルなのか? 今回はデジタルとアナログをテーマにお二人にお話いただこうと思います。
今日聴いていただくシステムはリン「KLIMAX EXAKT 350」、その他、ピエガ「Master Line Source 2」をオクターブの真空管アンプ「V80SE」で。前半はフォノイコライザーのアナログ出力とデジタル出力の比較、後半はURIKA IIを使ったレコード再生とDSD再生の比較試聴を行います。
黒崎 シーズン2の第2回もよろしくお願いいたします。今回のテーマはデジタルとアナログです。そのことで早速、島田さんは言いたいことがあるのだとか。
島田 物事を大きく2つに分けて考える二元論というものがあります。私が宗教学を始めた時、柳川啓一という先生がいまして、曰く、宗教の世界において二元論は非常に重要だと。当時は左と右、男と女、といろいろな場面で二元論という考え方は使われていましたが、先生は、それらは必ずどちらかが優位になると仰られていました。不均等二分、つまり正と属ということです。
アナログか、デジタルが〜二元論的発想
黒崎 今日のテーマでもある、デジタルとアナログも二元論的な考え方といえます。オーディオの世界ではそういった考えはデジタルが出てくる前からありました。例えば、真空管とトランジスタであるとか、レコードとCDであるとか。
島田 哲学の世界で二元論はどう捉えられているんですか?
黒崎 すごく簡単にいってしまうと、アリストテレスやヘーゲルなどは一元論的発想、プラトンやカントなどは二元論的です。それはどういうことかというと、「男」と「女」という差は根本的であって「人間」というのは後からその和としてあるのか(二元論)、あるいは「人間」という「一」が根本的で「男」と「女」という「二」は表面的な差に過ぎないと考えるか(一元論的)。
二元論の典型であるカントの哲学は、理性と感性、主観と客観など物事の根本に二元性をおきました。ヘーゲルは逆に根源的には一なるものと考えます。だからカントが「感性と理性」、「超越界と現世界」と二元性で表したとき、ヘーゲルは、それは誤っており、根元はひとつなんだと反論しました。
島田 ヘーゲルはカントを批判したの?
黒崎 カントを批判的に継承しながら、根元的な一元性(否定性)を考え抜いた人です。
島田 黒崎さんはカント哲学が専門だよね?
黒崎 そうです。だから僕は二元論派。
島田 じゃあヘーゲルをどう批判するの?
黒崎 ヘーゲルはえっと……今日それで終わってしまう(笑)。
一同 (笑)
黒崎 たとえば、感性と悟性。カントはこの2つは根元的だと言います。ヘーゲルは、その根元に構想力という一者があるじゃないかというわけです。構想力というのは、一方で悟性的で、他方で感性的である、それこそ根元的なんだと。そこからヘーゲルは自分の哲学を始めていくわけです。ああ、やっぱり長くなるからやめます。私は二元論的な発想が好きなわけ。例えば、アナログとデジタルみたいなね。
島田 まあ、ゆっくりやりましょうよ。私の先生が言っていたのは、二元論それ自体が宗教学の対象になるということです。二元論のあるところに宗教学者の出番がある。そこに来てオーディオの世界は、二元論が常に色濃くあります。マニアの中でどちらを選ぶかで激しい対立があって、その対立を軸にいろんなものができている。ただ、現代の対立であるデジタルとアナログについて、デジタルがすごく拡充していて一概には分けて考えられないように思います。
黒崎 そうですよね。そこでURIKA IIのようにアナログの一番の根源であるはずのLPレコードのイコライザーにデジタルが入り込んできたというのは、実にこの二元論的な構図が弁証法的に止揚(aufheben)されていて。今後こういった対立を超えるのか、あるいは、ということですよね。
島田 その前に、どちらの世界もそれぞれに存在しているという考え方もありますよね。
黒崎 もちろんそうですね。だから、自分の中でもデジタルとアナログを聴くというのは、二つの世界を行ったり来たりしている感覚です。
島田 だから、今日はカントをとるかヘーゲルをとるかを決める回です。
一同 (笑)
黒崎 カント的に表現すれば、アナログ派かデジタル派かという対立ですが(笑)。
まず、URIKA(ユーリカ:リン LP12内蔵フォノイコライザー)の話をしましょう。私もアンプを自作するので特に思うのですけど、オーディオ信号の通る経路はとにかく短くしたい。接点もなるべくなくしたい。だから本当は半田づけで全部直結したいくらいなんです。でもフォノイコライザーは普通プリアンプに入っています。ということは、カートリッジで生じた0.1mmボルトの程度の微小電流をずっと長い線を通し、しかも接点もいくつか通る。恐ろしいことです。
この点、URIKAはアームから15cmぐらいのところで初段に直結していて、600Ωで2〜4ボルト出力ができます。
島田 そういうプレーヤーはあんまり例がないんですか?
スタッフ 業務用、例えばEMTの場合、アーム直下にフォノイコライザーが取り付けられます。昔からないわけではありません。
黒崎 リンのLP12の場合で言うと、LPプレーヤーの中にフォノイコライザーを入れたかった。しかし、ACモーターだとノイズが発生する……。どうしよう。そうだ! DCモーターに変えたらノイズがなくなる。そうすればここにフォノイコライザーアンプが入れられると。
島田 それがURIKAだと。
黒崎 「ユーリカ!」というのは、ギリシャ語で「我、発見せり!」ですからね。それでURIKAを入れて、ライン出し600Ωの2〜4ボルトで出せるようになったので、いくら引っ張っても大丈夫だし、音質が良くなるに決まっている。だから、私はベーシックなLP12を使い始めたときから、最終目標はURIKAを搭載することでした。
そして従来モデルのURIKAと新製品のURIKA II。URIKA IIはデジタル出力に変わっています。
スタッフ 新製品のURIKA IIというのはリンのEXAKT LINKというリン専用のデジタル伝送の規格がありまして、EXAKT LINKのソケットがついている製品と接続するというコンセプトなんですね。
EXAKTシステムは、デジタルファイルを受け取ると、左右のスピーカーに向かって192kHz/24bitのPCMのファイルにしてストリーミングします。スピーカーに内蔵されたEXAKTエンジンで、クロスオーバーや部屋の状況に応じた周波数特性トリミングや、音量調整を行います。さらには各ユニットの個体偏差の補正もデジタル領域で処理して、最後に帯域ごとに装備されたD/Aコンバーターへ渡します。
フォノイコライザーの役目についてですが、レコードには、CDのようにフラットなレスポンスで信号が記録されていないので、イコライズして信号をフラットに戻さなければなりません。従来はCR型やNF型のアナログ手法による等価回路でしたが、URIKA IIはそれをアナログとデジタルのハイブリッドで処理しEXAKT LINKで伝送できるように
します。
黒崎 LPレコードは高域に比べて、低域は弱めにカッティングするRIAAカーブという信号記録様式を使っているので、それをフラットに補正するイコライザーアンプが必須です。そのため、プリアンプは必須だったわけです。
そのプリアンプが行っていた作業を、レコードプレーヤーの内部でやってしまう。それがURIKAだったわけですが、今度登場したURIKA IIは、このアナログの心臓部をすぐにデジタル信号に変換して、それでイコライジングしようとするものです。しかもデジタル領域でやるので非常に厳密に補正できます。
サウンドクリエイトスタッフ 2018年春、リンから画期的なフォノイコライザー「URIKA II」がリリースされました。LP12本体に内蔵し、出力はデジタルのみというもの。これは、アナログなのかデジタルなのか? 今回はデジタルとアナログをテーマにお二人にお話いただこうと思います。
今日聴いていただくシステムはリン「KLIMAX EXAKT 350」、その他、ピエガ「Master Line Source 2」をオクターブの真空管アンプ「V80SE」で。前半はフォノイコライザーのアナログ出力とデジタル出力の比較、後半はURIKA IIを使ったレコード再生とDSD再生の比較試聴を行います。
黒崎 シーズン2の第2回もよろしくお願いいたします。今回のテーマはデジタルとアナログです。そのことで早速、島田さんは言いたいことがあるのだとか。
島田 物事を大きく2つに分けて考える二元論というものがあります。私が宗教学を始めた時、柳川啓一という先生がいまして、曰く、宗教の世界において二元論は非常に重要だと。当時は左と右、男と女、といろいろな場面で二元論という考え方は使われていましたが、先生は、それらは必ずどちらかが優位になると仰られていました。不均等二分、つまり正と属ということです。
アナログか、デジタルが〜二元論的発想
黒崎 今日のテーマでもある、デジタルとアナログも二元論的な考え方といえます。オーディオの世界ではそういった考えはデジタルが出てくる前からありました。例えば、真空管とトランジスタであるとか、レコードとCDであるとか。
島田 哲学の世界で二元論はどう捉えられているんですか?
黒崎 すごく簡単にいってしまうと、アリストテレスやヘーゲルなどは一元論的発想、プラトンやカントなどは二元論的です。それはどういうことかというと、「男」と「女」という差は根本的であって「人間」というのは後からその和としてあるのか(二元論)、あるいは「人間」という「一」が根本的で「男」と「女」という「二」は表面的な差に過ぎないと考えるか(一元論的)。
二元論の典型であるカントの哲学は、理性と感性、主観と客観など物事の根本に二元性をおきました。ヘーゲルは逆に根源的には一なるものと考えます。だからカントが「感性と理性」、「超越界と現世界」と二元性で表したとき、ヘーゲルは、それは誤っており、根元はひとつなんだと反論しました。
島田 ヘーゲルはカントを批判したの?
黒崎 カントを批判的に継承しながら、根元的な一元性(否定性)を考え抜いた人です。
島田 黒崎さんはカント哲学が専門だよね?
黒崎 そうです。だから僕は二元論派。
島田 じゃあヘーゲルをどう批判するの?
黒崎 ヘーゲルはえっと……今日それで終わってしまう(笑)。
一同 (笑)
黒崎 たとえば、感性と悟性。カントはこの2つは根元的だと言います。ヘーゲルは、その根元に構想力という一者があるじゃないかというわけです。構想力というのは、一方で悟性的で、他方で感性的である、それこそ根元的なんだと。そこからヘーゲルは自分の哲学を始めていくわけです。ああ、やっぱり長くなるからやめます。私は二元論的な発想が好きなわけ。例えば、アナログとデジタルみたいなね。
島田 まあ、ゆっくりやりましょうよ。私の先生が言っていたのは、二元論それ自体が宗教学の対象になるということです。二元論のあるところに宗教学者の出番がある。そこに来てオーディオの世界は、二元論が常に色濃くあります。マニアの中でどちらを選ぶかで激しい対立があって、その対立を軸にいろんなものができている。ただ、現代の対立であるデジタルとアナログについて、デジタルがすごく拡充していて一概には分けて考えられないように思います。
黒崎 そうですよね。そこでURIKA IIのようにアナログの一番の根源であるはずのLPレコードのイコライザーにデジタルが入り込んできたというのは、実にこの二元論的な構図が弁証法的に止揚(aufheben)されていて。今後こういった対立を超えるのか、あるいは、ということですよね。
島田 その前に、どちらの世界もそれぞれに存在しているという考え方もありますよね。
黒崎 もちろんそうですね。だから、自分の中でもデジタルとアナログを聴くというのは、二つの世界を行ったり来たりしている感覚です。
島田 だから、今日はカントをとるかヘーゲルをとるかを決める回です。
一同 (笑)
黒崎 カント的に表現すれば、アナログ派かデジタル派かという対立ですが(笑)。
まず、URIKA(ユーリカ:リン LP12内蔵フォノイコライザー)の話をしましょう。私もアンプを自作するので特に思うのですけど、オーディオ信号の通る経路はとにかく短くしたい。接点もなるべくなくしたい。だから本当は半田づけで全部直結したいくらいなんです。でもフォノイコライザーは普通プリアンプに入っています。ということは、カートリッジで生じた0.1mmボルトの程度の微小電流をずっと長い線を通し、しかも接点もいくつか通る。恐ろしいことです。
この点、URIKAはアームから15cmぐらいのところで初段に直結していて、600Ωで2〜4ボルト出力ができます。
島田 そういうプレーヤーはあんまり例がないんですか?
スタッフ 業務用、例えばEMTの場合、アーム直下にフォノイコライザーが取り付けられます。昔からないわけではありません。
黒崎 リンのLP12の場合で言うと、LPプレーヤーの中にフォノイコライザーを入れたかった。しかし、ACモーターだとノイズが発生する……。どうしよう。そうだ! DCモーターに変えたらノイズがなくなる。そうすればここにフォノイコライザーアンプが入れられると。
島田 それがURIKAだと。
黒崎 「ユーリカ!」というのは、ギリシャ語で「我、発見せり!」ですからね。それでURIKAを入れて、ライン出し600Ωの2〜4ボルトで出せるようになったので、いくら引っ張っても大丈夫だし、音質が良くなるに決まっている。だから、私はベーシックなLP12を使い始めたときから、最終目標はURIKAを搭載することでした。
そして従来モデルのURIKAと新製品のURIKA II。URIKA IIはデジタル出力に変わっています。
スタッフ 新製品のURIKA IIというのはリンのEXAKT LINKというリン専用のデジタル伝送の規格がありまして、EXAKT LINKのソケットがついている製品と接続するというコンセプトなんですね。
EXAKTシステムは、デジタルファイルを受け取ると、左右のスピーカーに向かって192kHz/24bitのPCMのファイルにしてストリーミングします。スピーカーに内蔵されたEXAKTエンジンで、クロスオーバーや部屋の状況に応じた周波数特性トリミングや、音量調整を行います。さらには各ユニットの個体偏差の補正もデジタル領域で処理して、最後に帯域ごとに装備されたD/Aコンバーターへ渡します。
フォノイコライザーの役目についてですが、レコードには、CDのようにフラットなレスポンスで信号が記録されていないので、イコライズして信号をフラットに戻さなければなりません。従来はCR型やNF型のアナログ手法による等価回路でしたが、URIKA IIはそれをアナログとデジタルのハイブリッドで処理しEXAKT LINKで伝送できるように
します。
黒崎 LPレコードは高域に比べて、低域は弱めにカッティングするRIAAカーブという信号記録様式を使っているので、それをフラットに補正するイコライザーアンプが必須です。そのため、プリアンプは必須だったわけです。
そのプリアンプが行っていた作業を、レコードプレーヤーの内部でやってしまう。それがURIKAだったわけですが、今度登場したURIKA IIは、このアナログの心臓部をすぐにデジタル信号に変換して、それでイコライジングしようとするものです。しかもデジタル領域でやるので非常に厳密に補正できます。
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