哲学者と宗教学者の対談が炸裂!
黒崎政男×島田裕巳のオーディオ哲学宗教談義 Season 2「存在とはメンテナンスである」<第2回>
ジャズの45回転レコードで比較
島田 じゃあ、ジャズ行きましょうか。オリジナル盤でいってみようよ。
黒崎 僕がファーストプレスこだわるので、島田さんもオリジナル盤を持ってきてくれました(笑)。
島田 はい、対抗して持ってきたオリジナル盤です。ブランフォード・マルサリスと彼のお父さんのエリス・マルサリスの『ファザー・アンド・ソン』。サントリーのコマーシャルにも使われました。12inchシングル45回転です。このオリジナル盤は貴重です。
〜URIKAでブランフォード・マルサリス『ファザー・アンド・ソン』試聴〜
黒崎 やっぱり45回転だからか、生き生きしているね。
島田 音に余裕があるよね。うちに早く帰ってウィスキー飲んで、みたいなそういう曲でしょ。
黒崎 うちに早く帰りたい、ってそういう曲?
島田 カミング・ホームだからね。
〜URIKA IIで同じ盤を聴く〜
黒崎 こちらのURIKA IIにしたら、ピアノがすごくうまく聴こえる。サックスも、明るく抜けが良くて。
島田 そう。最初の方はサボってたんじゃないかって。特に45回転だからはっきり出るんだと思う。
黒崎 もちろんアナログのURIKAの方がいいという意見もあるでしょうが、今のに関しては、デジタルのURIKA IIの方が明らかに良かった。
島田 ただ、こうなってくると、何を持ってアナログとデジタルという比較をしていいのか分からないですね。
黒崎 そうですよね。アナログレコードの中核部分であるフォノイコライザーがデジタル化されているわけだから、アナログだけをやり続けることで、アイデンティティを保ってきた人にとってはなかなか……。
島田 だから、『analog』という雑誌を買い続ける人と『Net Audio』を買い続けてきた人たちがいたわけで。
黒崎 この記事はどちらに載るのでしょうか? (編集部註:『analog』です)
島田 多分これらの扱い方って非常に難しいと思うんですよ。今までの枠組みが崩されているから。
黒崎 今までの二元論が崩れて、アウフヘーベン(※註)せざるを得ないのか。
※註)ヘーゲル的用語で「止揚」。ヘーゲルの弁証法では「正」と「反」という二元論的対立をより高い「綜」の段階で統一すること。
島田 アウフヘーベンというところまではまだ行ってないような気がする。だけど、アナログの中にデジタルが組み込まれるということは、今までとは明らかに違う世界だよね。
黒崎 私も自作プリアンプを何回も作りましたが、RIAAカーブって、抵抗とコンデンサーの値を変えることによって、上は通りにくくして、下を通りやすくするような回路を作って、フラットにするわけです。
でもこれはかなり適当というか、「ある程度」なわけですよ。RIAAカーブがぴったり厳密になるべきかどうかは、いろいろ意見があると思いますが、私はトータルで出てきた音を一番重視します。
アンプの組み合わせやスピーカーの特性、部屋の作りなどすべて関わってくるので、RIAAカーブだけを問題視することもない気がするけど、デジタルにしたことで、0.0何%まで厳密に補正できるということはありますよね。
RIAAカーブというのは超ミクロな溝に高域から低域まで刻む困難、つまりLPレコードの限界に対する苦肉の策なわけです。それが今でも続いていて、2018年にデジタルでやることになったということですから。ある意味では、1950年冒頭からのLPレコードの不備というか。
島田 仕方のないことってことでしょ。
黒崎 SPレコードの場合はそんなことなかった。LPにした時に33回転、つまり3分の1に落として、かつグルーヴも細くして。だからLPレコードは、SPレコードに比べて失敗作だと私は思ってきたわけです。相対的に針の大きさとゴミの大きさの相対比が大きくなるわけですよ。SPだと針がでかいから、ゴミが来ようがあまり関係ありません。でもLPになると、小さいゴミで音がビビる。ひどいものを作ったなと思っていたから、私はずっと昔にLPレコードはやめたわけですよ。
島田 URIKA IIの場合、SPの世界というのに近づいているということ?
黒崎 URIKA IIというか、LP12全体でね。いかにLPレコードのマイクログローブという細いところから、情報を取り出すかに腐心したわけですよね。
回転系もシャーシ系もアームも45年の間に着実に深化させてきた。レコードがこのレベルに到達していたから、一昨年、私は20年ぶりにLPに復活したわけです。いちばんスタンダードなLP12でもLPレコードがちゃんと安定したメディアとして鳴る。
島田 LPに戻ったわけですね。
黒崎 そこへきて、オリジナル盤になったら、さらにすごいんですよ。
島田 ……もういいです。
一同 (笑)