オーディオユニオン御茶ノ水でのイベントをレポート
デノンサウンドマネージャーが音作りの秘密を語る。「山内セレクション」レポート
■音作りの方針は、大人しく丸めるより「出すようにする」
6曲目、7曲目に紹介されたのは、どちらもイギリスのアーティストの楽曲。「ソウルとかヒップホップ、ジャズ、エレクトロニカのような音楽が、イギリスでは比較的流行りやすいところがありますが、ルーツとなる音楽を引用・参照することが多く、それがイギリスならではの『枯れた』感じに繋がっているのかなと思います」と、山内氏はその魅力を語る。
1995年生まれの若手ミュージシャン、トム・ミッシュの「It Runs Through Me」は、ベテランヒップホップグループのデ・ラ・ソウルも参加したボッサ・ソウル風の曲。聴きやすくリズミカルにまとめられ、「楽しさやノリの良さ、リズム感が分かりやすく伝わっているかどうか」が聴きどころ。
2人組のユニット、ユセフ・カマールが手掛ける「Remembrance」は、ジャズ・ファンクを軸にいろいろなジャンルがクロスオーバーする、70年代を彷彿とさせるようなトラック。こちらの聴きどころも、ドラムマシンのような機械的なリズムを人力で演奏することで生まれる、一風変わった独特なビート感にあるという。
それぞれの曲が持つ独特のリズム感も、“SX1 LIMITED”はB&Wのスピーカー「802D3」を通してストレートに伝える。そこにも、山内氏のサウンドチューニングに対する哲学が込められている。
「サウンドを仕上げていく中で、いろんな音を出そうとすると、若干暴れたり、アラが目立ちやすくなります。だから全体的にまろやかに、穏やかに済ませようというやり方が生まれます。ですが私の場合、全体を大人しく丸めることで音楽的な情報がスポイルされてしまう気がして、面白くないと感じるんです。だから全体として『出すように、出すようにする』という傾向が、私のチューニングにはあると思います」
■「Vivid & Spacious」の集大成“SX1 LIMITED”は、開発体制も集大成的
山内氏のチューニング哲学が存分に発揮された“SX1 LIMITED”だが、開発背景も普通のオーディオ機器とはひと味違っている。ふつう、オーディオ機器は期間をきっちりと区切り、その中で開発が進められる。ところが“SX1 LIMITED”では、山内氏が完成したと判断するまで開発を続けることができた。その結果、開発期間は実に約4年におよび、妥協のない仕上げが追求された。
その一例として紹介されたのが、インシュレーターの素材選びのエピソードだ。“SX1 LIMITED”のインシュレーターには、アルミ合金でも一番硬度の高い「A7075」が素材として採用されている。ところがアルミ合金には、7000番台以外にも、組み合わせる金属や特性ごとに6000番台、5000番台……と数多くのバリエーションがある。山内氏自身ははじめからA7075に注目していたが、それでも同社で入手できたものは片端から試していったという。
「A7075のフットを試すと、これしかないなあ、と。音のキメが細かいというか、彫りが深くなる感じですね」
また、天板にも同じくA7075を採用しているが、この表面処理の仕方ひとつをとっても音の印象が変わってくる。これも試行錯誤を重ね、はじめツヤ消しの梨地仕上げだったところ、最終的にはヘアライン仕上げとしたそうだ。
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