オーディオユニオン御茶ノ水でのイベントをレポート
デノンサウンドマネージャーが音作りの秘密を語る。「山内セレクション」レポート
■定番の楽曲も交えつつ、ストリーミングの流行についても語る
イベント中盤からは、演奏や録音の良さで知られるクラシック/ポップスの名盤をチョイス。演奏難度の非常に高いパガニーニのヴァイオリン曲に神尾真由子が挑んだ『パガニーニ:24のカプリース』、アナログ録音の最盛期の作品とでもいうべきマイケル・ジャクソン『Thriller』から「Human Nature」、チック・コリアの『Return to Forever』から「Crystal Silence」など、オーディオ機器の実力を測るにはオーソドックスな楽曲で“SX1 LIMITED”の表現力を披露していく。
かと思えば、再び山内氏が好むハウス系の楽曲に立ち戻り、シカゴ・ハウスのベテラン、ラリー・ハードの「Another Light」を紹介する。オーディオ試聴会ではなかなかかけられることのないジャンルだが、空間にレイヤーが広がっていくようなところはクラシックに近いものがあり、グレードの高いオーディオ機器で再生する意義があるのだという。
「私がよく聴くのは、ハウスの中でも比較的ゆったりとしたディープ・ハウスというサブジャンルでして、毎日会社で音を聴いて疲れているんですけども、自宅に帰るとこういったものをついつい聴いてしまいます。ディスコミュージックと違うのは、あまり起承転結がなく、延々とつながっていくようなところです。その中でミニマルなものを聴いていると、独特のノリ、トランス感が出てきます」
ジャンル、国籍、年代など、実にバリエーション豊かな音源は、もちろんいずれもSACD/CDが用いられた。一方、昨今盛り上がっているのはストリーミングサービス。特に近年は、『Amazon Music HD』『mora qualitas』『Deezer』のように、ロスレス〜ハイレゾ品質をサポートし音質面も追い上げを見せている。この点について、山内氏はどのように考えているのだろうか。
「当然、私どもはCDプレーヤーなど作っていますので、CDがますます売れなくなっている中、ストリーミングサービスの流行は手放しでは喜べません。一方で、海外盤やニッチなジャンルなど、昔なら探し回らないと見つけられなかったマニアックな音源もすぐ聴けるという面では、楽しみ方が広がって良い時代だと思います。オーディオメーカーとしてネガティブに考えすぎず、時代に合わせてオーディオを盛り上げていけたらいいなと考えています」
■ベースモデル“SX1”とは「一言では語れない」ほどの違いがある
試聴会の最後の2曲として選ばれたのは、ボーカルの絶妙な距離感が魅力という今井美樹「卒業写真」、そしてサラウンド規格 Auro 3Dでの収録を兼ね、ノルウェーの教会で5本のマイクを駆使して録音されたことから広大な空間表現を秘めているというHOFF ANSENBLE「Lys i desember」となった。
それに合わせて最後に語られた“SX1 LIMITED”にまつわるエピソードは、ベースモデルにあたる“SX1”との違いについて。2013年に登場した“SX1”と“SX1 LIMITED”の間には、外見上はあまり変更が無いように見える。しかし、音質面については「色々な要素が変わってしまっているので、どこが違うか一言では語れない」ほどの差が2機種の間にはあるという。
それでも、特に異なるポイントを強いて挙げるならば、それは「分解能」、そして「サウンドステージの広さ」なのだそうだ。
「広いスペースで聴き比べると分かりにくいこともあるかもしれませんが、今回の試聴会のように何十分と聴いているとすぐに分かるくらいだと思います。人によっては『違いすぎる』と言われることもあるくらいです。機会があれば、その差を是非聴き比べてください」
「“SX1 LIMITED”に限らず、デノン製品をこれからもよろしくお願いします」と締めくくった山内氏。次回はぜひ、“SX1 LIMITED”と“SX1”、新旧並べたよりいっそうディープな「山内セレクション」の開催を心待ちにしたい。