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aptX Lossless再生のサウンドも確認

本格化する「Snapdragon Sound」と「LE Audio」、その関係と進化点は?クアルコム責任者に聞く

公開日 2022/08/15 11:06 山本 敦
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■最新バージョンのaptX Adaptiveから音質・伝送精度が向上した

――aptX Adaptiveコーデックは最新バージョンから96kHz/24bitのハイレゾワイヤレス再生に対応しました。

Chapman氏 aptX Adaptiveはロッシーなオーディオコーデックです。優れた音質に到達するためには高ビットレート伝送を安定させる必要があります。Snapdragon Soundには接続の安定性を確保し、高ビットレート伝送を安定させるテクノロジーが含まれています。ゆえに、Snapdragon Soundに対応する機器どうしであれば、96kHz/24bit対応のハイレゾワイヤレス再生が可能になります。モバイル端末側にはSnapdragonシリーズの最新SoCと、Wi-Fi・Bluetoothの無線通信を制御する「Qualcomm FastConnect 6800」以降のサブシステムが必要です。

バージョンアップを重ねてきたaptX Adaptiveは96/24のハイレゾ伝送に対応する

――アクティブノイズキャンセリング機能はどのように進化していますか。

Chapman氏 イヤホンの装着状態やユーザーの耳の形状に合わせて消音効果を最適化する、Adaptive ANCに対応しました。S5/S3ラインともに、ハードウェアの基礎性能が向上したことで、ノイズキャンセリングとトランスペアレントモードの精度が高くなっています。

クアルコムのチップセットによりAdaptive ANC機能の搭載も容易になる

ーー2021年秋に発表され、モバイルSoCの「Snapdragon 8 Gen 1」から搭載が始まった「aptX Lossless」コーデックについても教えて下さい。

Chapman氏 この頃脚光を浴びているロスレス対応の音楽ストリーミングサービスを、高品位に楽しめるワイヤレスオーディオのテクノロジーとしてクアルコムが独自に開発した、最大44.1kHz/16bitのロスレス伝送に対応するBluetoothオーディオコーデックです。aptX Adaptiveに内包されるテクノロジーなので、ビットレートは固定ではなく、環境に適応しながら可変します。

aptX Losslessは、最大約1.1Mbpsの転送ビットレートを実現しています。44.1kHz/16bitの音源を再生すると転送ビットレートは約1.4Mbpsになりますが、これを少し圧縮して約1.1Mbpsにしてソース側デバイスから送り出し、シンク側デバイスでBit-to-Bitのデコードを行います。ソースとシンク、両側のデバイスが最新のSnapdragon Soundに対応するaptX Adaptiveをサポートすることによって、End-to-Endのロスレス再生体験を引き出します。

44.1kHz/16bitの音源をロスレス音質で送り届けるaptX Losslessの技術をSnapdragon Soundに追加した

――aptX Adaptiveコーデックの特徴である「低遅延」はどのように実現しているのでしょうか。

Chapman氏 クアルコムは、Snapdragon Soundに対応するチップをEnd-to-Endで最適化してきました。テクノロジーのブラッシュアップを慎重に図ってきたことで、Bluetoothオーディオのパフォーマンスが一歩ずつ改善されてきました。昨年Snapdragon Soundをローンチした時点で、システムレベルの遅延は「89ミリ秒」でした。この時点で既に十分な低遅延性能を実現していると言えますが、最新バージョンのaptX Adaptiveでは80ミリ秒を切る低遅延性能に到達しています。

aptX Adaptiveのテクノロジーにより79msの低遅延性能を実現した

進化の過程では、オーディオ信号のパスを入念に見直し、コードの一行一行に至るまでアルゴリズムを練り直すプロセスを重視しています。信号がワイヤレスオーディオインターフェースを通過する際に迷走しないよう、パスを最適化できたところに技術革新があります。加えて、さらに優れた無線通信技術も導入しています。ソースとシンクの両側にクアルコムのSoCがあり、aptX Adaptiveコーデックによって信号を伝送した際に、ベストパフォーマンスが発揮されます。

接続の安定性を高めることについても、長年に渡る研究を重ねてきました。Snapdragon Soundには左右同時接続の安定性を高めるための技術「TrueWireless Mirroring」が含まれます。シンク側デバイスにどのようなソース機器が接続された場合でも、左右同時接続により通信の安定性を確保します。Snapdragon Soundに対応するデバイス同士であれば、接続安定性がさらに高くなります。

aptX Adaptiveの優位性を活かして、ゲームのBGMを左右同時接続により低遅延・安定接続で聴きながら、モノラルのボイスチャット音声をヘッドセットのマイクからピックアップして伝送するといった使い方も可能。もうひとつはバイノーラル録音。左右独立接続によりつながる完全ワイヤレスイヤホンの内蔵マイクを活用して、イヤホンでバイノーラル録音を楽しむイメージだ

Bluetooth LE Audioへの「期待」と「気がかりなこと」

――いよいよBluetooth LE Audioが本格的に立ち上がろうとしています。クアルコムの見解を聞かせて下さい。

Chapman氏 Snapdragon SoundのS5とS3はどちらも “LE Audio Ready” なプラットフォームです。私自身として、LE Audioについては「気がかりなこと」と「楽しみなこと」がそれぞれあります。

LE Audioが提案するBluetoothワイヤレスオーディオの技術革新は、既にクアルコムが実現している技術革新と重なっています。「高音質」「ロバストネス」「低遅延」の、いずれもクアルコムがLE Audioが話題になる以前から取り組んできたことで、Snapdragon Soundに含まれる技術としてこれを提供しています。

Bluetoothオーディオデバイスによるハンズフリー通話音質を向上させる「aptX Voice」なども一例です。今後、様々なオーディオデバイスがLE Audioに対応した後に、互換性検証も入念に行っているSnapdragon Sound対応のデバイスと同等の使い勝手が得られるのかが気がかりです。

LE Audioについて楽しみなことは、ワイヤレスオーディオの新たな可能性を広げるツールが充実していることです。例えば1台のソース側デバイスが、複数のシンク側デバイスにオーディオ信号を配信できる「ブロードキャストオーディオ」などは面白いと思います。

チャップマン氏もBluetoothオーディオの可能性を広げる「ブロードキャストオーディオ」など、LE Audioの各機能に期待を寄せている

――新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが、Snapdragon Soundに対する人々の興味・関心に影響を及ぼしたこともありますか。

Chapman氏 当社が定期的に行っているコンシューマー市場調査「The State of Sound」の2021年のレポートでは、ある傾向が見られました。パンデミック以前まで、オーディオデバイスは多くの人々にとって「Nice to Have(あった方が良い)」なものでした。パンデミック以後は、オーディオデバイスが音楽を聴くこと以外にも、リモートワークやゲーミング、その他様々なコンテンツを楽しむ用途にも使われるようになり、「Must-Have(なくてはならないもの)」となりました。

多くの方々はオーディオデバイスを必要な時に、いつでも簡単に使いたいと望んでいます。「音質」「ロバストネス」「低遅延」を実現するSnapdragon Soundを周知させ、ユーザーの期待に今後も応えていく責任を強く感じています。

――今後、ゲーミングデバイスやモバイルPCにもaptX Adaptiveコーデックによる快適なワイヤレス接続のメリットが求められると思います。それぞれのカテゴリーにパートナーは拡大していますか。

Chapman氏 クアルコムはモバイルPC、AR/XRデバイス、スマートウォッチにモビリティを含む、様々なデバイスが必要とする最先端のICチップを開発・提供しています。これらのデバイスはすべて良質なオーディオ体験を必要とするものばかりであり、Snapdragon Soundの進化にも深く結びついています。モバイルとオーディオの領域を越えて、Snapdragon Soundが提案する先進的なライフスタイルの魅力が伝わり広がることを期待しています。

Snapdragon Soundに賛同するパートナーが続々と増えている

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