「Senka21」1月号<新春特別対談 Part.3>ホームシアターの未来像を語る−前編

公開日 2004/01/05 00:16
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評論家・山之内正氏(左)と日本オーディオ協会会長・鹿井信雄氏(右)
2004年 新春特別対談 ホームシアターの未来像を語る−前編−ホームシアターは音域が大切

<対談>
日本オーディオ協会会長・鹿井信雄氏 ×オーデイオビジュアル評論家・山之内 正氏

ホームシアターは音域が大切、人間が感じるリアリティー

<山之内> 私がホームシアターの入門向けの本を書くにあたって一番こだわったところは、機械をどう選び、組み合わせるかということもさることながら、ホームシアターというのは音が大切だということです。音楽は皆さん聴きますから、音楽の深みとか感動を、実際によく分かっている方が多いです。それを抜きにして、映像、いかに大きな絵になるか、いかに奇麗に見るかを語っても、これは長続きしないような気がします。その意味で、ホームシアターは確かにこれから伸びていく市場だと思いますが、例えばオーディオについては数万円のパッケージのセットが随分たくさん出ています。しかし、それで終わりではないことをぜひ言いたかったのです。

<鹿井> 非常に大事なことです。例えばテレビの画面は光の三原色のRGBのそれぞれの単色光が、組み合わさることで、数多くの色を再現していますが、人間の感じる光のすべては表現できていません。音も全く同じだと思います。人間が感じ取っている音が、今のハイエンドのオーディオで全部の音域が再現できているのかというと、違います。それはある空間の中で、楽曲等の音源の再生を重点にステレオとして聴いた時、ある限界を持った再生範囲ででも自然に忠実に音源の再生が出来ているということだと考えます。ところが自然の音や映画の世界を考えたら、あるいは5.1チャンネルのホームシアターのエリアになると異なります。一つの例を言えば、手を素早く振ると風も音も感じます。その感じがホームシアターでは出てこないといけない。しかし80Hzぐらいにピークがあるサブウーファーでは十分ではありません。例えば、ヘリコプターが回って風圧を感じる。雷が鳴りますと、ズドーン叩かれたような感じがするでしょう。大太鼓がドンドンと鳴るとズシンズシンと風圧がくる。これがやはり私はホームシアターの基本であって、ホームシアターの音の基本は、幅がものすごく広いものが求められるのだと思います。今の再生装置ではホームオーディオの延長としてのレベル程度にしかいっていないのです。

<山之内> 先ほどの光の三原色の話ではありませんが、視覚を刺激する空間でも、音の情報の密度や再生音域からくる情報の大きさというのは、映画やシアターにとって大変に重要であるということですね。ここは実に興味深いお話ですね。

<鹿井> 自然の音というのはそういうものなのです。

<山之内> 帯域も広いし、ダイナミックレンジも大きいですよね。

<鹿井> それを、音楽というエリアで聴いていた音で聴いたら、自然の音像が再現できるのかというと、そうではないはずです。風も感じなくてはいけない。もっと高い音の、33kHzの波長は1mmです。1mmというと皮膚の産毛が震えます。ですから100kHzまで再生された音を聴くと息遣いまで非常によく聞こえてきます。ただし、一方でそれらの再生装置というのは指向性が厳しくて、ちょっと外れたら聞こえないですよね。

<山之内> そこまで高域になりますと、そうですね。

<鹿井> そういう意味で今、音楽を聴くという中では満足できていたかもしれませんが、ホームシアターを本当に聴こうと思ったら、やはり映画館の音を実際にドルビー・プロロジックでつくった人たちと同じように、人間が感じるようなリアリティーをどこまで表現できるか、それはホームオーディオとは音域が違うと思うのです。

<山之内> そうでしょうね。周波数の問題もそうですし、先程サブウーファーのお話もいたしましたが、レスポンスですね。自然界の音は、当たり前の話ですが、何も抵抗がありませんのでものすごくレスポンスの優れたいい音がしますよね。実際に私たちが体で感覚として味わっている音で、ホームシアターではまだ出ていない音がいっぱいあります。

<鹿井> 今から10年後には、もっといろいろなデバイスができてきて、再生機器の性能が増し、さらに魅力的なシアターが出てくるだろうと思います。ホームシアターは音響再生と画像再生ですが、画像はまだ立体になっていません。何も自然のものを見ろと言うことではありませんが、人間が自然のものに近いと感じられるようなものを表現できる機材やソフトウエアは、まだまだ緒に入ったばかりだと思います。そう思ったほうがいいと思います。

<山之内> そうですね。

【1月25日発売「Senka21」2月号へ続く】

(Senka21編集部)

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