(株)テクニカフクイ 林保彦氏インタビュー
ピンチはチャンス。従来のやり方に捉われず、新しい商品をどんどん産み出していく
■デジタルをキーワードにマイクロホン事業をさらに強化
− その後、需要の膨らみを満たすために1996年に中国に進出されたわけですね。
林 中国に工場展開した大きな理由のひとつが人の問題でした。武生は製造業が盛んな地なので、募集をかけてもなかなか人が集まらずいつも苦労していました。中国に生産拠点を移すことによってその心配がなくなり、武生を開発拠点としての機能に転換しました。
− 品質管理はどのように維持されているのでしょうか。
林 中国で生産を始めた当初は、現地で作ったものを日本で検査して日本のお客様にお届けしていました。ところがお客様が組立工場を海外に展開されるようになりましたので、われわれの中国工場からお客様の中国工場に直接出荷するようになりました。
われわれは生産会社ですから品質の高さが命です。品質管理ではこれでもう十分ということはありません。ですからそのための仕組み作りや教育が大変重要です。特に日本のお客様は品質に対して非常にシビアです。業種別では自動車業界の品質に対する厳しさは尋常ではありません。本当にそんなことができるのだろうかと思うような要求を突きつけられることも多々あります。でもそれを聞いて実現していくことがわれわれ自身の力を高めていくことにつながります。
当社はOEMのウェイトが高いので、発注企業様からの工場監査を受けます。監査で指摘を受けるとついつい反論したくなることがありますが、まずは素直に聞くことを徹底しています。品質面で完璧な到達点に達するということはありません。いろいろ問題があるはずなので、外部からの監査によって問題点を教えてもらい、それを潰していこうということです。これによって現場での品質力が鍛えられていきます。
当社のお客様は一社ではありません。お客様によっていろいろ品質方針もありますし、品質システムもお客様ごとにそれぞれ持たれていますので、画一的にはいきません。そこでそれらを全部聞くことによって、様々な会社の最新の品質管理手法を自社内に吸収しています。これは当社の品質を高めていけるチャンスです。
− 世界のトップ企業の品質管理手法を自社に最適な品質管理体制を作り上げるための教育システムの一環に組み込まれているということですね。
林 お客様には監査での問題点の指摘を受けるだけでなく、工場の管理者に対してさらに品質を高めるための講義もお願いしています。着実にレベルアップし続けていくためには、お客様からいろいろ教えてもらうことが必要となっています。また、品質を高めていくためには、教育とシステム作りです。日本のお客様は大変品質に厳しいので、われわれの中国工場では他社で働いていた経験者を雇うのではなく、他社のやり方に染まっていない人を雇ってまっさらの状態から日本人の品質に対する感覚を徹底的に教育しています。
品質管理ではこれでもう十分ということはありません。われわれの中国工場の中に教育システムを担当する専門の部署を置いていますし、お客様からも単に監査を受けるだけでなく、現場の管理者やトップを対象にした講習会も開いていただいております。
− そうやって鍛え上げてきた品質の高さが御社の最大の強みだということですね。
林 当社の最大の強みはモノづくりのノウハウの蓄積による品質の高さです。私はもともと技術屋です。光ピックアップの量産当初に品質問題で痛い思いをしましたが、これが私の中では大変大きな勉強になりました。設計者が気になっているところが少しでも残っていると、あとで必ず問題が起きます。設計者がこれで絶対大丈夫だという自信を持てるまで直さなければいけません。それでも問題が出ることもあります。ですから品質を高めるための努力を絶えず続けていかなければいけません。
■ピンチをチャンスとして
− 今後の展開についてどのような計画をもたれていますか。
林 昨年の秋まではフル稼働が続いていましたが、昨年10月以降、急速に市場が冷え込んできました。ただ、これはいずれ時間が解決してくれると思います。PC用のドライブがどこまで回復するかは不透明ですが、BDはコストが下がっていけば間違いなく需要が伸びてくると思います。問題はBDの次がなかなか読めないことです。
武生事業所の売上の約半分を占めている光ピックアップ事業の次のテーマが読めない中で安定した経営を続けていくために、今後、ワイヤレスマイクの構成比率を上げていきます。ワイヤレスマイクの世界はいまだにアナログです。単に音声だけを伝送するのであればデジタル化は簡単ですが、いい音で音楽を伝送するのは非常に難しいからです。テクニカフクイはワイヤレスをキーワードにマイクロホンの事業を伸ばしてきましたが、デジタルを新たなキーワードとしてさらに大きく成長させていこうと考えています。
− 最後に林さんの来年度に向けた抱負を聞かせてください。
林 ここしばらくは苦しい時期が続くでしょうが、絶対に乗り越えられると思っています。当社は1990年代前半に大変な苦労をしながらピンチを乗り越えてきました。悲観していても何も出てきません。ピンチはチャンスです。同じことを続けていると技術者の考え方も硬直化しがちです。そこを一挙に変えるいいチャンスだと思っています。
営業からはこんな商品が欲しいという要望がいっぱい来ています。技術屋からもこんなものを実現したいというアイデアがいっぱい出てきています。これをチャンスと捉えて、新しい商品を数多く産み出していきたいですね。とにかくいい商品を作りたい。そこに全力投球していきます。
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