新マウントで勝負に出た戦略モデルの実力
ソニー“α”は新たなステージへ − 新開発デバイスてんこ盛りの「NEX-5」を試す
■フルHD AVCHD動画が撮影できる
本機はフルHD AVCHDの撮影ができるのも特徴の一つ。下位機種の「NEX-3」はMP4動画しか撮影できないので、デザインを除けば、これが最も大きな差異点と言えるだろう。APS-Cサイズセンサーとレンズの合わせ技によるボケ味を活かした動画が撮影できるのは一眼カメラならではのメリットと言え、実際に撮影した動画を見てみても、十分にその魅力が伝わってきた。
動画撮影時に気になるのはAF性能だが、急に被写体との距離を変えると、少しAFの挙動が迷ってしまうことが多かった。こういう場合には、ピントがしっかりと合って落ち着くまで、だいたい1秒くらいの時間がかかってしまう。これは最新ビデオカメラでも起きがちなことだが、NEX-5はピントの合っているところとボケているところがはっきりと区別できるため、なおさら気になってしまうのだ。
そこでマニュアルフォーカスを試してみると、これはかなり使える印象。たとえば画面を固定しておいて、手前の被写体から奥の被写体へピントを徐々に移していくといった、映画のような表現もお手の物だ。ディスプレイが高精細なのでピントの山も比較的見つけやすい。ただしMF時に、画面上の任意の点を拡大する機能が無いのは少々残念(静止画ではもちろん可能)。PinP風に中央部だけ拡大するような機能があれば、よりMFでのピント合わせがしやすいように感じた。
またAVCHDの動画撮影モードが、1,920×1,080/59.94i(約17Mbps)の1種類しか用意されていない点もやや残念だ。レンズを交換して様々な表現が行えるだけに、24p記録にも対応して欲しかったし、ファイルサイズを小さくするために720pモードやSD画質モードなども用意してくれたらもっと良かった。
Eマウントレンズが現時点で2種類しか用意されていないのも、動画撮影を本格的に行いたい方にはマイナス材料だ。たとえば運動会などで我が子の活躍を撮影するなどといった用途には、3倍ズームレンズではいかにも心許ない。
ただし同社は、NEX-5/3に搭載された“Exmor” APS HD CMOSセンサーを搭載し、Eマウントでレンズ交換が可能なビデオカメラを今秋発売する予定だ(関連ニュース)。本格的な動画撮影機能はこのビデオカメラに搭載されるということだろう。また、同じく秋には11倍ズームレンズ「SEL18200」も発売される予定だし、NEX-5/3の売れ行きを見て、サードパーティー製のEマウントレンズも活発化するに違いない。
■他社製ミラーレス一眼のベンチマークとなる製品
ここまでNEX-5をレビューしてきたが、本機はとにかく機能がてんこ盛りなので、詳しく紹介できていない機能も多い。特に3Dパノラマ撮影機能は注目に値するが、これは現時点でまだテストできないので、ファームアップが開始されたら改めて紹介することにしたい。
フラッシュが本体内蔵ではなく同梱という点も評価が分かれそうだが、記者が使ってみた印象では、豊富な撮影機能を活用すれば、フラッシュが絶対に必要という場面は少ない。また上部に同梱のフラッシュを付けたままでも、フラッシュ本体を折りたためるのでそれほど邪魔には感じない。同梱フラッシュではバウンス撮影などに対応できないが、そういう用途が必要な方はもっと本格的なカメラを選ぶはずなので、欠点と断じることはできない。
本機はこれまで他メーカーの後塵を拝してきた“α”を蘇らせるため、「Eマウント」、そしてAPS-CサイズCMOSセンサーを新開発し、搭載してきた戦略モデルだ。前述したようにレンズの種類はまだ少ないし、アクセサリーの充実もこれからといった状況だが、本機を試用してみて、スタートダッシュだけでなく、今後も継続的に売れるだろうと思わせる完成度の高さを実感できた。今後Eマウント対応ビデオカメラが出てくれば、相乗効果によってサードパーティー製や自社開発のレンズ、アクセサリーが次々に登場することも期待できる。
本機の登場によって、“α”がこれまでと全く異なるステージに上がったことは間違いない。そればかりではなく、今後しばらくはミラーレス一眼カメラ全体のベンチマークとなる可能性が高い。他社がこのモデルにどう対抗してくるかという点にも注目していきたい。