【レビュー】「iPhone 5」の実力を全方位テスト

■レファレンスイヤホンでiPhone 5の音質をチェック

カメラの画質ならともかく、再生音質が良くなるならという理由でiPhone 5を買う人も、逆に再生音質がいまひとつならiPhone 5を買わないという人も、おそらく皆無だろう。これはそういう製品ではない。とはいえAV専門サイトとして無視はできない要件だ。ここはチェックしておこう。

まずはヘッドホン出力の音質。iPhone 4とiPhone 5にSHUREのハイエンドイヤホンSE535を組み合わせて音質を比較した。

iPhone 5の方が高域が明るく鋭く、シンバルのキレや抜けに優れる。また音場の明るさを少し増して見通しが良い。低音側のドラムスやベースは、iPhone 4よりも少しタイトだ。スピード感のある高音ともよく合っている。ボーカルの立ち姿もクリアさを増しており、音場にビシッと浮かび上がる様が美しい。

音像のスマートさのおかげで、音場の余白が綺麗に残っていることもポイント。スペースを生かした空間性が生まれている。音質には別段期待していなかったのだが、思いがけず好印象だ。

■新しい付属イヤホン「EarPod」の実力を確かめる

続いては付属するAppleの新標準イヤホン、EarPodの実力をチェックしよう。外観はヌメッと、よりいっそう量産型エヴァっぽさを増したが、音の方はどうだろうか。もちろん比較対象は旧標準付属イヤホンだ。

これは明らかに良くなっている。もちろんいわゆるハイエンドなイヤホンには及ばないが、旧型からの音質アップは誰にでもわかるレベルだ。この新型を聴いたあとに旧型に戻してみたときのガックリ感は、とても大きい。

まずは全体の印象として、低域と高域が自然に伸びており、それでいて中域も充実。一言で言えば「真っ当な音質・バランス」を手に入れている。旧型は低域も高域も伸びずナロウレンジで、しかも中域も曇っているので、違いは圧倒的だ。

音のばらけ具合もよい。旧型では細かな音はひとかたまりになってしまっているが、新型では、解像感が高いというほどではないが、固まった感じはかなり薄れている。たとば「音楽はボーカル中心でしか聴かないから細かな音質なんて気にしない」という方でも、その違いは実感できるはずだ。声だけに注目して聴いてもその感触が段違いなのだ。クリアさや抜け、厚みが全く異なる。むしろボーカル描写の進化こそが、旧型から新型への進化で最大のポイントと言ってもよいくらいだ。

iPhoneやiPodに付属するイヤホン、その音質はイヤホン市場のある種の基準だ。それがこのレベルに到達したということは、低価格帯のイヤホンにはこれをさらに明らかに超える音質が求められるようになる。今後の各社の動きも楽しみである。

なお装着感についてもすこぶる良好。異物感をほとんど感じさせないフィットっぷりだ。

遮音性と音漏れについては、多くの方はあまり期待していないだろうが、その期待されなさ具合に応じた感じである。つまり遮音性は低く、音漏れは小さくはない。それらを求める方はやはり別途にカナル型イヤホンを用意するべきだ。

内蔵スピーカーの音質も確認しておこう。お気に入りの曲を友達にちょっと聴かせたいときや、みんなで動画を見るとき、FaceTimeでの通話などでは内蔵スピーカーのお世話になるからだ。iPhone 4と比べると音がこもる感じが薄らぎ、抜けや広がりはずいぶんと良くなっている。スピーカーの開口部が拡大されたおかげだろうか。いずれにせよ明確な向上があり、多くのシーンでそれを実感できるだろう。

■まとめ

今回、一通りiPhone 5の実力を確認して最も印象的だったのはディスプレイだ。iPhone 4を手にしたときにはそのRetinaディスプレイの解像感、文字の美しさや写真の微細さに感動したが、今回のiPhone 5ではそれに加えて、画の抜けが良く、色はさらに生き生きとしている。Appleはこの点を、事前にそれほどプッシュしていなかったので、嬉しい誤算だった。

次に満足したのは持ち心地。iPhone 4と同レベルを維持してくれればOKと思っていたが、幅を維持して薄型軽量化した効果は大きく、持ち心地は明らかに良くなっている。実は僕はiPhone 3GからiPhone 4に持ち替えたときに「iPhone 3Gの方がしっくり来る…」と感じたのだが、今回の5は最初に持った時点でかなり好印象だった。

駆け足でのチェックとなったが、総じて好印象だ。僕の買い替えペースだと、また本機とも2年つきあうことになるのだが、仲良くやっていけそうな予感がしている