[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第21回】“低音ホン”の決定打? デノン「AH-C300」のデカさと太さを体感せよ
■低音描写力の秘密を解説
モノとしての魅力や使い勝手、機能面については以上のようなところだが、僕がコイツを「規格外」「最終兵器」と呼ぶのは、さらに加えて、その売り文句に違わぬ低音描写の故にであり、そしてそれを実現している技術の故にだ。まずは技術面を確認しておこう。
コイツに搭載されているドライバーは「ダブルエアコンプレッションドライバー」だ。ダイナミック型ドライバーがどら焼きのように向かい合わせに2基搭載されている。
構造図を見たところ、一体化されたケースの中にダイナミック型ドライバーを対向配置し、両ドライバーからの音を結集させてノズルから放出する模様。たしかに効果を期待できそうな仕組みだ。
また本機は、この構造を実現するために大型化を余儀なくされたと見てよいだろう。ということはこのダブルエアコンプレッションドライバーにはそこまでして採用するだけのメリットがあると、デノンが判断したということだ。やはり期待は高まる。
■お待ちかねの音質チェック! 現時点で「“低音ホン”決定打のひとつ」
さて、試聴チェックだ。まずはせっかくだからクラブ系の重低音サウンドが効いている曲から聴いてみよう。ミシェル・ンデゲオチェロの「Cookie: The Anthropological Mixtape」からの曲だ。
…いいっ! 彼女がその指先から叩き出す強烈なベースが頭の中心に図太く放り込まれる。その図太いさはあらゆるイヤホン、ヘッドホンの中でもトップクラスだ。そして太いのだが全く緩くない。骨太かつ柔軟な筋肉質で脂肪は必要十分にしか乗っていない(逆に言えば必要十分には乗っている)、ヘビー級の一流格闘家の分厚い肉体を思わせる。圧倒的な量感を持ちながらも鈍重ではなく、音色のドライブ感も強い。
高域側もスネアドラムのスカンッ!という鋭い抜け、ハイハットシンバルのザシュッ!と金属質の粒子の粗さなど、キレのある描写。音場を支配する強烈なベースとのコントラストが鮮やかだ。ギターやシンセの空間性も良好で、音場感も豊かだ。
音のキレっぷりも印象的だったので、それが特に重要な作品も聴いてみる。ハードロックの古典中の古典、Deep Purple「Machine Head」だ。
キレてるキレてる!『Highway Star』のオルガンソロの直前に入るギターの低音弦の刻みがキレまくってる!歪みの粒の粗さ、ザクザク感ジャキジャキ感がたまらない。音色の暴れを損ねていないどころか一割増にしてくれている印象だ。
またドラムスは太くしかしタイト。“低音ホン”ではあるが、好き放題に低音をプッシュするようなイヤホンではない。だからこそバンド全体のスピード感が生かされている。こちらも文句なしの迫力だ。
しかし僕としては女性ボーカルが魅力的でないイヤホンは却下である。その点はどうか。鬼束ちひろさんが歌う絶品カバー曲『守ってあげたい』で確認。
これもよい。彼女の声の太さや響きが実に豊かに表現され、立ち姿が大きく、堂々としている。本機の良さがボーカルにも生かされている。強いて言えば声に僅かなざらつきや鋭さを感じるが、さほど不快なものではなく、ダイナミック型らしい生々しさを増す要素にもなっている。
というわけでAH-C300。現時点での「“低音ホン”決定打のひとつ」と言ってもよいであろう出来映えだ。あまりにも巨大なルックスやハウジングに一体化されたリモコンの操作性については好みが分かれるだろうが、そこが気にならない低音マニアの方は狙ってみてはいかがだろうか。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Apple Macintosh、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。 |
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