[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第25回】あの実力派 卵スピーカーの弟分! オラソニック「TW-S5」を聴く
特にボーカルが左右のスピーカーの中心、パソコンの画面の中心に実に綺麗に浮かび上がるところが、まさに僕にとってのこのシリーズの最大の魅力だ。TW-S5でもそれが実現されている。
アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」エンディングテーマであるカバー曲『secret base 〜君がくれたもの〜(10 years after Ver.)』では、三人の女性声優の声が入れ替わり立ち替わりに中央に浮かび上がり、それがサビで重なるそのカタルシスが見事に再現される。それぞれの声も見事にクリアで立体的だ。
ボーカルの浮かび上がり方は他の曲でも素晴らしく、またボーカルの感触、手触りも良好だ。声のシャープさとソフトさの両方をうまく活かしており、すっと自然に耳から心に流れ込んでくる。
もちろん全般的な空間性にも優れている。『secret base』や、ピアノ、エレクトリックベース、ドラムスのトリオ作品、上原ひろみさんの『MOVE』では、左右のスピーカーの一回り外側にまで音場が広がる感覚を味わえる。これは優れたスピーカーならではのものだ。その中での各楽器、例えばシンバルの一枚一枚の配置の緻密さ、音場全体に精密感もある。
定位や空間性の他の要素もチェックしていこう。
TW-S7と比較するまでもなく本機は小型であるため、低音のボリューム感はさすがに絶対的に十分とは言えないし、当然TW-S7に及ばない。しかしパッシブラジエーターなどの効果か、このサイズのスピーカーとしての水準は軽くクリアしており、音色の太さや音場の厚みに大きな不満は感じない。
ボリューム感を無理に稼ぐチューニングにせず、またアンプと磁気回路の強力さのおかげか、低音の制動は決まっている。ベースは音像がぶれずに明確だし、スタッカートがピタッとキレてくれて気持ちがよい。ドラムスもアタックがスパンと抜けるし、タイトな太さを感じる。
高音側はシャープネスが効いており、シンバルは薄刃に描き出される。各楽器の響きの成分も豊かに感じ取ることができて、静かな曲では特に、音色の余韻までを楽しめる。このあたりは卵形エンクロージャーの剛性の高さ、余計な響きのなさのおかげで、本来の響きが際立っているというわけだろう。
TW-S7の際は期待をせずに聴いたら予想外の素晴らしさに驚いたわけだが、このTW-S5は相応の期待をして聴いたのだけれどその期待を裏切らない見事な音だった。TW-S7よりもさらにもっと手軽に、スピーカー再生を存分に楽しめる。もちろん設置スペースと予算に余裕があればTW-S7を選ぶことで低音の厚みなどをさらに楽しめるので、そちらもおすすめだ。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Mac、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。 |
[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域 バックナンバーはこちら