[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第32回】まさかの300時間駆動ポタアン! JL Acoustic Labs「BAB1-XA」を試す
■肝心の音質は? SHURE「SE535」と組み合わせて試聴を開始!
さて、わざわざポータブルヘッドホンアンプを使う理由は音質向上なわけだから、そこの実力が伴っていないことにはお話しにならない。続いては音質チェックだ。SHURE「SE535」と組み合わせて試聴した。
なお本機は音声入力が無い場合はアイドル状態となり、プロセッサーの信号がサーっというホワイトノイズのように聞こえるが、音声が入力されればそれは消える仕様となっている。
最初に印象を短くまとめると、クリアさと柔軟さを兼ね備えることに好感を覚える。クリア系で解像感の高いオーディオ機器は同時にカッチリと硬質傾向の描写であることが多いと思うのだが、このアンプは音色も音場もクリアなのだけれど同時に音色も音場も柔軟性を感じさせるのが魅力。特に楽器や声の倍音成分が豊富かつ柔軟なのがポイントだ。
では具体的なところを挙げていこう。
上原ひろみのピアノトリオのアルバム表題曲「MOVE」でまず感心したのは、冒頭でピアノだけが響く場面でのその響きの綺麗さ。余韻の消え際までに耳を持っていかれる。本機のクリアさが発揮されている場面だ。そのピアノの音色自体の艶やかさも好ましい。カチカチとした感じではなく、音色の角が適当に丸められている。
続いて入ってくるベースとライドシンバルも鮮やかだ。ベースは音色が濃いと同時にくっきり感も強い。ぐいぐいと力強く明確だ。ライドシンバルは金物感がよく表現されており、カンという抜けと金属質の響きが共に心地よい。さらに続いてドラムスの太鼓が入ってくるが、こちらは実に穏当な感触で太すぎず緩すぎず、収まりが良い具合だ。全体のバランスの良さに貢献している。
その後の曲中ではハイハットシンバルの細かく巧いフレーズが見所だが、その音色や、あるいはスネアドラムのスナッピー(ザザッという音を出す共鳴弦)の成分のほどよい柔らかさも、前述のようにこのアンプの持ち味だ。特にハイハットは柔軟かつクリアに描き込まれており、フレーズの表情、表現がよく伝わってくる。
ポップユニット相対性理論の「ミス・パラレルワールド」のハイハットは、再生機器によってはかなり鋭くザクザクとした音色になることもあるのだが、このアンプはこれもほどよく和らげる。ただその分ロック的な荒さは薄れるので、好みは分かれるかもしれない。
一方やくしまるえつこさんのボーカルの和らげ方は、多くの方に好まれるのではないだろうか。豊富な倍音成分を刺さる感触には持っていかずに、ふわっとした感触で伝えてくる。他、ベースのくっきり感や力強さはこちらでも発揮されており、またギターのペラッとして軽やかな音色もこの音源(演奏)の良さを巧く引き出している。それが必要な音色には厚みを持たせ、そうでない音色には余計な厚みを持たせていないわけだ。
歪んだギターの表現はLUNA SEA「JESUS」で確認。これは相対性理論のハイハットとボーカルから感じたのと同じ印象だ。倍音成分が豊富でジューシーという意味ではギターらしいおいしさを引き出している。そのLUNA SEAのギタリストSUGIZO氏のソロ作品「Truth?」からも何曲か聴いたが、ギターは全般に個人的には好感触だった。
最後は宇多田ヒカル「Flavor Of Life -Ballad Version-」で女性ボーカルをチェック。これは文句なしだ。クリアなのであるが声の輪郭線をカッチリさせすぎずに、柔らかなソフトフォーカス感を見せる。声の手触りもざらつかずによい具合の温度感や湿度感がある。
というわけで、音質面もこの価格帯としては十二分に優秀でコストパフォーマンスはかなり高いし、個性を持ちつつそれが強すぎないのも好ましい。またなおかつ新しいもの好きに訴えかける技術的な独自性もある。
そしてやっぱり嬉しいのは驚異のバッテリーライフだ。ポタアンのバッテリー切れでさみしい思いをしたことがあるとか、たびたびの充電が面倒でポタアン離れしてしまったとか、そんな方にはさらに強く訴えかける製品といえるだろう。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。東洋大学哲学科中退。大学中退後、パーソナルコンピュータ系の記事を中心にライターとしての活動を開始。現在はデジタルオーディオ及びビジュアル機器、Mac、それらの周辺状況などに関する記事執筆を中心に活動する。また、ロック・ポップスを中心に、年代や国境を問わず様々な音楽を愛聴。 その興味は演奏や録音の技術などにまで及び、オーディオ評に独自の視点を与えている。 |
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