[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第64回】「秋のヘッドフォン祭2013」を高橋敦の“超個人的ベスト5”で振り返る
【第3位】ダイナミック型イヤホンの逆襲!
あるじゃないですか、「広くてフラットな特性を確保するには当然マルチBAでしょ?」とか「いやいやこれからはハイブリッドが伸びてくるでしょ?」的な風潮。
もちろんそれはそれで妥当な意見なのだが、まだだ!まだ終わらんよ!ダイナミック型の進化も!
…というわけで今回の各ブースでは、ダイナミック型ドライバーそのものやその使いこなしをそれぞれ独自に進化させたモデルをあちこちで見ることができた。
まずいちばんアピールが強力だったのは、サエクが新たに取り扱う韓国ブランドDynamic Motionの「DM008」(関連ニュース)だ。社長自ら来日して特訓したという日本語でスピーチ。1982年の創業以来ダイナミック型ドライバーの開発・設計・生産を手がけ、そこで蓄積されたものを生かしてこのたび自社製品を発表したとのことだ。価格は1万3,440円。
技術的には同社が「Power Dynamic Driver」と呼ぶ構造が特長。ドライバーの駆動力の源となるマグネットを、一般的なドライバー構造よりも外周に配置することで、外径を大きくすることに成功。ドライバー口径は8mmなのだが、従来の10mmクラスに相当するマグネットを搭載しているという。
その音はやや硬質な音調で透明感が際立ち、響きや余白を生かしたジャズを細部から音場全体まで明瞭に再現。しかしパワフルなロックインストを聴いてみれば、ダイナミック型らしいほどよくざっくりとした荒さも感じられ、その表現力が繊細さに偏ってはいないこともわかる。これはよい!
なお、この連載を読んでくださっている方ほど(ありがとうございます)「こいつの音楽センスは偏っていて信用できない」と感じていることかと思うが、この製品については当サイトでもおなじみの岩井喬氏も「従来の2万円台の製品に比肩する」と登壇し、コメントしているので安心してほしい。
また、価格帯を抑えた製品ではラディウスが目立っていた。「NEF31」(実売価格目安4,000円程度)「NEF21」(同3,000円程度)「NEF11」(同2,000円程度)というラインナップ(関連ニュース)で、特にNEF31に注目だ。
NEF31には「High-MFD構造」を採用。たぶん「High-Magnetic Fields なんたら」の略だと思われる。ドライバーのボイスコイル(入力された電気信号を電磁石の原理で磁力に変換して駆動力を生み出すパーツ)から漏れる磁束を閉じ込めるためのマグネットを追加。磁束密度を高めることでより効率的な駆動が可能となっているとのことだ。
聴いてみると低音はくっきりとしており音色が濃く、十分にパワフル。ベースは少し緩く感じる場面もあるが、不快にボワンとした緩さではない。この価格にして上質なボリューム感やエネルギー感を持ったイヤホンだ。
なお他にNEF21/NEF11と共通の技術として、省けるパーツを省くことで振動板の有効面積を拡大した「リングレスダイアフラムボンディング方式」等も導入されている。
そのほかにダイナミック型の注目機種としては…。
オーディオテクニカは先日に発表済みの「ATH-IM70」「ATH-IM50」を展示。ダイナミック型ドライバー2基による「デュアル・シンフォニックドライバー」を搭載している。ダイナミック型らしい厚みや自然な暴れをたっぷりと生かしたサウンドが特徴だ。
Dita Audioは3年前に設立されたというシンガポールの新鋭ブランドで、「Answer」(4万9,900円)と「Answer Truth Edition」(7万9,900円)を展示。ドライバー周りの特殊な技術は謳われていなかったが、航空宇宙グレードアルミ削り出し一体成形の筐体が、外観の美しさと音の精密感の両方に貢献しているようだ。
なお「Truth Edition」の違いはカラーリングとケーブルで、ケーブルはオランダのハイエンドケーブルブランドvan den Hulが本機専用に用意したものとのことだ。