[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第79回】宇多田ヒカル「First Love」ハイレゾ音源全曲徹底レビュー!
■ハイレゾ版と通常版のマスタリングの違いを徹底検証!
この時点で話が長くなりすぎているので結論から言うと、今回のハイレゾ向けマスタリングはまさに「コンプを控えめにしてダイナミクスレンジを確保する」方向性だ。音圧競争華やかりし当時のオリジナル盤とは大きく異なる。
…といってもオリジナル盤も、確かに今回と比較するとダイナミクスは圧縮されていて音圧は高いのだが、当時としては別に悪い録音ではない。作品の音楽性を損ねてはいないし、この種のポップスの中では良好な部類の音質だと思う。当時の条件(音圧競争のまっただ中でCDフォーマットに落とし込む前提)からすれば、オリジナル盤の仕上がりも妥当ではある。
しかしせっかくハイレゾで出すなら、その器のダイナミクスレンジを生かし、ハイレゾに手を出すようなユーザーにこそ喜んでもらえるような方向性でのリマスタリングを施すというのは、納得だし歓迎だ。
ではマスタリングの違いを、曲中での音量レベルの推移をグラフ化できるアプリを使いながら見てみよう。聴き込んでの細かな印象は後ほど全曲レビューで述べるので、まずは概要だ。なおアプリ(Sonic Visualiser)の都合でハイレゾ版もサンプリング周波数は44.1kHzに落としてから解析しているが、量子化ビット数は24bitのままなので、音量グラフに大きな影響はないはず。
上の図はアルバムのオープニング曲「Automatic」。オリジナル盤を聴いてからその再生音量設定のままハイレゾ版を聴き始めるや、明らかに音量レベルが下げられているとわかった。誰が聴いてもわかるレベルでだ。全体の印象としては、ハイレゾ版はオリジナル盤よりもオープンというか、空間に余裕を感じられる。
上の図はバラード曲「First Love」。オリジナル盤の音量レベルはやはり大きいが、聴いていても過度なコンプ感はない。グラフを見てもダイナミクスは十分に確保されている。しかし比較すればハイレゾ版はやはり空間により余裕があり、同程度の音量と感じられるように再生機器の側で調整しても、聴き疲れが少ない。
次ページ「ハイレゾにするにあたってこの音に“しました”」な、ほどよいリマスタリング