HOME > レビュー > 【第79回】宇多田ヒカル「First Love」ハイレゾ音源全曲徹底レビュー!

[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第79回】宇多田ヒカル「First Love」ハイレゾ音源全曲徹底レビュー!

公開日 2014/03/10 12:33 高橋敦
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

■04|First Love

アルバムからのシングルカットでもヒットした名バラード。アルバムの中ではここまでのグルーブを一旦区切る位置付けにもなっている。ストリングスが入っていたりはするが殊更に大袈裟ではなく、コンパクトというか身近で生々しい歌詞やアレンジも特徴と言えるかもしれない。

期待通りに、ボーカルの特に高域の感触は実に繊細。ウィスパー的な息の成分を豊かにしかもシャープに描き出しながらも、それを耳障りにしていない。宇多田さんの声質や歌のニュアンスといった要素をより細やかに快適に堪能できる。

またベースの描き出し方も実に良い。ダイナミクスレンジの余裕、それによる空間の余裕のおかげか、ベースが音場にぽんと綺麗に浮かび上がり、その周りに余白が残されていて他の音とお互いを邪魔し合わない。比べるとオリジナル盤は中低域の密集感が高く、ベースと他の音が少し重なっているように感じられる。


■05|甘いワナ 〜Paint It, Black

フィギュアスケートの村主章枝さんが2003−2004シーズンのショートプログラムで取り上げたことで僕にとっては印象的な、ローリング・ストーンズ「Paint It, Black」の歌詞からの引用もあるという曲。曲調、特にリズム面にも、打ち込みサンプリングを主体としつつ往年のロックやファンクを再解釈再構築したような雰囲気もある。スネアにフランジャーをかける場面も「あえての古臭さ」を狙ったのだろう。

この曲でもハイレゾ版で光るのは空間の余裕。音場内に楽器がぎゅぎゅっと密集されている感じを薄めて、リズム周りのスカスカ感、狙って抜いた感じを際立たせている。またこれも周りにスペースができたおかげなのか、ベースとドラムスは低音の空気感のような成分もより豊かに届くようになっており、全体の重心も少し下がる印象。スカッとした抜けとぐっとくる低重心さを共に向上させるとは心憎い。


■06|time will tell

「Automatic」のインパクトがあまりにも強いのでそれの陰に隠れている感はある。しかし「Automatic/time will tell」としてこちらもデビューシングルのタイトルトラックであり、重要な一曲だ。シンプルでソリッドでヘヴィなリズムに、さらっと歌ったようにも聴こえるさりげないボーカルが乗る。

ハイレゾ版ではハイハットシンバルの金属の質感に特に感心させられた。様々な解像度の向上によって質感の荒さ粗さの再現性が増している。元の音はローサンプリングレート&ロービットのサンプリング音源だったりするのかもしれないが。

ちょっと妙なわかりにくい話かもしれないが、ロースペックのデジタルサウンドにはロースペックなりの質感があって、それを生かして録音・再生しようとするとハイスペックが必要になったりするものだ。この曲の場合の元の音が何であるかはわからないが、僕にそういったことを思い起こさせる感触の音が、このハイレゾ版からは聴こえてくる。

次ページラスト曲「Give Me A Reason」まで一気にチェック!

前へ 1 2 3 4 5 6 7 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE