[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第79回】宇多田ヒカル「First Love」ハイレゾ音源全曲徹底レビュー!
<ハイレゾ版「First Love」全曲レビュー!>
■01|Automatic -Album Edit-
これぞまさに日本のポップスシーンにコンテンポラリーなR&Bの要素を定着させた決定打と言えるであろう名曲。現在の視点でこれを聴くとR&B色が特に強いとは感じないかもしれないが、それはこの曲やこれと時期を同じくした曲たちによって、以降の日本のポップスにR&Bテイストが定着させられたからだ。
この曲は新マスタリングの効果が特にわかりやすい。例えばドラムスはダイナミクスを感じやすくなっており、加えてアタックはよりスパッと自然な立ち上がりと抜けの良さ。グルーブを形成する大きな要素であるダイナミクスとタイミングの両方の変化によって、その魅力がさらに際立っている。またダイナミクスレンジの圧縮が控えられたことで、音場の密集感も緩められている。おかげで全体に適当な余白が生まれ、歌も他の楽器もそれぞれの姿がよりすっきりと見える。
なお、上記のような印象は収録曲の多くに共通だ。
■02|Movin' on without you
デビューシングル「Automatic」に続いて発売されたセカンドシングルのタイトルトラック。ミディアムテンポで少し怠いグルーブの「Automatic」から「次はこう来たか!」と思わせてくれた、冒頭のディストーションギターも印象的なアップチューン。アルバムでもその流れで収録。
この曲ではベースが特に印象的。フレットレス的なニュアンスで滑らかに音程をつなぐなどの手法で叩き出されている「うねり」が特徴的なのだが、今回のハイレゾマスターではそのうねりをより生々しくというか、ぐっと有機的なものとして感じられる。これもダイナミクスとアタックという要素が大きいのではないだろうか。
またそのベースを筆頭に音の太さも好感触。実にナチュラルで力みのない太さだ。これのあとにオリジナル盤を聴くと、ドーピング込みでガチガチに鍛え込んだマッシブさに思える。それはそれでありなのだが、ナチュラルに心地よいのは今回の感触の方だ。
■03|In My Room
テンポ感やグルーブは「Automatic」とも少し近しいが、ワウワウ・ギター等によってファンキーな雰囲気も醸し出す。ベースの休符の生かし方も巧みだ。まあとにかくこの曲もグルーブが素晴らしい。
さて宇多田さんの歌声にはシャープな高域成分と柔らかく深い中低域成分が絶妙に共存しているが、この当時は後の作品と比べると、高域の心地よいシャープさの方が目立つと感じる。そしてこのハイレゾマスターは、その「心地よさ」がオリジナル盤よりもさらに心地よい。ゆったりとした曲(音符)ではないので実際には一瞬のことだが脳内で時間を引き延ばして言葉にしてみると、声がすっと上まで綺麗に伸びて綺麗にほぐれて綺麗に消えていくような印象だ。この要素はバラードともなればさらに発揮されるはずで、次のあの曲が楽しみ…
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