[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第92回】NCもBluetoothも!ソニーの“イマドキ高機能”ヘッドホン「MDR-ZX750BN」を聴く
■いよいよ音質チェック!柔軟な厚みの低音が魅力
まずは印象をまとめると、バランスとしては低音側が強い。その低音はゴツンと硬い感触ではなく、柔軟な厚みだ。高域側は、基本的にはシャープさは打ち出さない。しかしだからといってボーカルの抜けが悪いということもなく、耳に刺さらない聴きやすさとこもらない抜けの良さの兼ね合いが巧く調整されている。
中島愛さんの歌はポップス、演奏はフュージョン、展開はプログレな「愛の重力」では、冒頭からシンセベースの太さが際立つ。方向性としてはボワンとした太さ。しかしボワンとしてしまう寸前で踏み止まっている。プログラミングのシンセベースなのだが、フレーズは別として音色は、モータウンっぽいというかプレジションベースっぽいというか、大柄でウォーム。このベースを中心に、タイトとかソリッドではなく、おおらかでヘヴィなリズムという感じに聴こえるのが面白い。再現性という意味ではこれは違うのだが、これはこれで成立させている。
ギターのカッティングは、前述のように高域は主張させていないので鋭いキレは少し薄れる。しかしほどよくチャキッとはしており、リズムの刻みは明快だ。ギターソロの音色は倍音豊かとはいかないが、歪みの粒が粗く迫力がある。高域側でのリズムの刻みでは、ハイハットやライドシンバルが少し埋もれ気味なのは残念だ。
ボーカルは、耳に刺さる成分が明らかに控えめで、とても聴きやすい。もちろんその代わりに本当に微細な息づかい等の描き込みは甘くなってはいる。しかし歌の表情をなくしてしまうほどではなく、そのバランスが絶妙だ。前述のように声の抜けも良好。優秀なエンジニアがいくつかの帯域をピンポイントでイコライジングしたかのように巧妙な音作りだ。
ハード・エレクトロなサウンドのPerfume「Enter the Sphere」を聴くと、この曲のバキバキでエッジィな感じは少し薄まる。中低域のアタック感やシンセの歪みの成分の尖り方といった要素だ。一方で低音の響きの盛大さや厚みはやはり豊かで、この手のサウンドを低音に埋もれるくらいで楽しみたい方にはフィットしそう。
Daft Punk「Get Lucky」も同じ印象。ギターのカッティングやドラムスのハイハット、ベースのスタッカートのキレはちょっと弱まる。しかしベースは何しろ重厚な音色で、地を這うようなグルーブを出してくれる。
■大事なノイキャン機能もチェック!
音質の他にもうひとつ大切なチェック項目はノイズキャンセリング性能。今回は地上の電車内でチェックしてきた。正直に言うと、ソニーにしてはちょっと効きが甘いかなと思う。しかしノイズキャンセリングヘッドホン一般としては十分な効き具合だ。柔らかく密着するイヤーパッドの遮音性も含めて、電車内で気になる線路の響きや空調の唸りは軽くなる。
ざっくりと言うと「普通のカナル型イヤホンよりは静かだけれど高遮音性イヤーモニターには及ばない。でもヘッドホン一般としては上位クラスの静かさ」といったところだ。騒音はカットしたいけれどイヤホンましてやイヤモニみたいな装着感は苦手という方には、有効な選択肢になるだろう。
…というわけで今回はソニー「MDR-ZX750BN」を紹介した。音質的には、フラット志向というかモニター系の音が好きな方だと低音の強さや描写の甘さが気になるかもしれない。しかし低音を生かしてベース重視でリズムを楽しみたい方やそういう場面(屋外ではそういう音を好ましく感じる方も多いだろう)にはフィットするかと思う。
またワイヤレスの快適さや安定性、この価格帯にしては十分に確保されたノイキャン効果はさすがソニー。それらを重視する方にもおすすめできる、トータルでの魅力が光るヘッドホンだ。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 |
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