[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第97回】ここらでまとめてみようか? いまのイヤホンドライバーの種類と特徴を!
▼超基本!ダイナミック型とBA型
まずは超基本を確認。イヤホンに用いられているドライバーの種類は「ダイナミック型」「バランスド・アーマチュア型(BA型)」…のふたつが主流だ。
●ダイナミック型
ドライバーユニットの基本形とも言うべきもので、スピーカーからイヤホンまでの多くで主流。その構造と動作はおおよそ以下のようなものだ。音声信号=電流をボイスコイルというパーツに流し込むことでそこに電磁力を発生させ電磁石とする。そのボイスコイルには実際に空気を揺らす役目の振動板(ダイヤフラム)が取り付けられており、その部分はドライバーユニット内で可動式というかフローティングのような状態になっている。
その周囲にはマグネット(永久磁石)が設置されており、ボイスコイルとマグネットの引き寄せと反発でボイスコイルと振動板が前後に駆動。それが空気を押し引きして音を発生させる。イヤホンに組み込めるレベルの小ささとなると精密部品ではあるのだが、構造と動作の基本は見事なまでにシンプル。たいていの場合でシンプルさはよい方向に働く。だからこそこれが主流であり続けているのだろう。
●バランスド・アーマチュア型(BA型)
電磁石と磁石の引き寄せと反発で駆動すること自体はバランスド・アーマチュア型でも変わらない。しかし構造はやや異なる。ボイスコイル自体は板あるいはピン状のアーマチュア(接極子)というパーツに固定。そのアーマチュアは一辺が固定されており、もう一辺はフリー。そのフリーなもう一辺の側の周囲にマグネットが設置されている。この構造によって、ボイスコイルに電磁力が発生すると固定されている側を支点にアーマチュアが振動するのだ。そしてアーマチュアの振動が振動板に伝えられ、音が生み出される。ダイナミック型に対しての強みは、極端に小型化できるということだ。一方で超小型であるが故に設計や生産には独特の高い技術が必要となる。
●ダイナミック型とBA型の特徴
このふたつの方式それぞれに多くの採用例があるということは、それぞれに特長があるということだ。しかし採用例がどちらかに偏ってはいないということは、どちらも万能ではないということ。どちらを採用するかは、そのイヤホンのメーカーの考えや、各モデルごとの方向性によって異なり、選び分けられている。ここではまずはざっくり大雑把に、それぞれの傾向を述べておこう。
ダイナミック型は、再生帯域の広さや中低域の厚みや音の勢いといった多くの要素を、自然に確保しやすい。もちろん安物として作ればそれなりの特性にしかならない。しかし長らく主流であり続けたことでノウハウが各メーカーに蓄積されているおかげか、その素直で幅広い潜在能力を各メーカーがそれぞれの手法と方向性で引き出せている、引き出しやすいという印象がある。わかりやすい例で言えば、口径の大小や振動板の形状や素材といったところをどう調整すればどういった音を得られるのか、そういったところを各メーカーが把握し、その上でさらに様々な調整や挑戦をしているのだ。
バランスド・アーマチュア型は、小さくて精密な振動系であるおかげか、入力に対しての反応のよさ、高域側の繊細な再現性には定評がある。一方で単純に「低音の再現性を高めるには面積の大きな振動板が有利」というのもひとつの事実であり、バランスド・アーマチュア型はその点には、例外はあるものの一般論的には、弱みを抱えている。
のだが詳しくは後述するが、超小型であることを生かせばひとつのイヤホンに複数基のバランスド・アーマチュア型ドライバーを搭載することが可能であり、それは低音の再現性の補強にも効果が大きい。様々な基数や配分によるマルチドライバー構成を実現しやすい点もバランスド・アーマチュア型の優位のひとつだ。
●他のドライバー方式
上記の二大方式の他にもドライバーの種類は、極めて少数派としてではあるが、あるにはある。
エレクトロスタティック型(コンデンサー型、静電型とも)は、電磁力ではなく静電力で振動板の全面をほぼ均一に駆動するという方式。ダイナミック型とバランスド・アーマチュア型は振動板の端をどこかしらの支点で固定してあり、支点部分とそこから遠い部分では振動の仕方が異なる。そこで振動の歪み=音の歪みが起きる(現在の実際の製品ではその点の改善も進んでいることには留意)。対してエレクトロスタティック型は振動板の全面をほぼ均一に駆動するので、その点で優位というわけだ。またこの方式の振動板は超々極薄軽量なので、その反応のよさ、繊細な再現性は、バランスド・アーマチュア型に対してさえも優位という意見もある。
ただし、エレクトロスタティック型ドライバーは他のドライバーとは駆動原理が根本的に異なるので、他のドライバー向けに作られているヘッドホンアンプ回路が利用できない。そのため専用のアンプが必要だ。なのでエレクトロスタティック型の数少ない製品である。スタックス「SRS-002」も、イヤホン本体の「SR-002」と専用ポタアン「SRM-002」のセットで販売されている。まあ使い勝手の面では厄介な方式ではあるのだが、逆に言えばメーカーに「そこまでしても採用する価値がある」と思わせる、ユーザーに「そこまでしても使う価値がある」と思わせる、それだけ独特の魅力を備えていると言える。
他には、マグネティック・アーマチュア型というのもある。といってもこちらも知る限り、オーディオ用での採用例はTDK Life on Recordの「TH-ECMA600」のみだ。こちらは基本的にはバランスド・アーマチュア型の近縁なのだが、より単純な構造が特徴。頑丈で音圧が強く音の輪郭が明確で騒音下でも聞き取りやすいということで、警察無線用イヤホン等で実績があるそうだ。その特長を生かす形でオーディオ用に調整して採用したのが前述のモデル。