[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第97回】ここらでまとめてみようか? いまのイヤホンドライバーの種類と特徴を!
▼ダイナミック型デュアルドライバー構成
ダイナミック型ドライバーは単基で幅広い帯域をバランスよくカバーできることが特長だが、それを複数基搭載することでさらに望ましい特性を得ようという製品もある。複数基といってもダイナミック型はバランスド・アーマチュア型ほどの小型化はできないので、2基によるデュアル構成が限度だが。
そのデュアル構成だが、どんな意図でどんな設計と実装を行うのかというのが実は実に幅広い。
●audio-technica「DUAL PHASE PUSH-PULL DRIVERS」
同社「ATH-CKR9/10」に採用の技術。同径の2基のドライバーを対向配置、すなわち向かい合わせに配置し、それをプッシュプル(片方の振動板が前に出るときもう片方の振動板は後ろに下がる)で駆動する。厳密なたとえではないが、二人がそれぞれシーソーの両側に乗ってギッコンバッタンすると最小限の力でシーソーが動く、あんな様子をイメージしてもらうとその駆動の効率のよさがわかりやすいかと思う。効率よく負担の少ない駆動というのは当然、より力強く正確な駆動につながるわけだ。
●DENON「ダブルエアコンプレッションドライバー」
同社「AH-C300」に採用の技術。対向配置という点は後発のオーテクの技術と共通。動作については「プッシュプル等の記述は特にはない」「後発のオーテクが『世界初』を謳っているので同じ対向配置でもそちらとは仕組みが大きく異なるはず」ということから、こちらは単純に2基のドライバーを同様に動作させて負担を減らしつつパワーを稼いでいるのではないかと想像する。
こちらも厳密なたとえではないが、大きな荷物を二人で同時に力を出してふんっと持ち上げるような、そんなパワー感を想像すればよさそうだ。実際その低音の図太さはすごい。またドライバーが2基になれば振動板の面積も2倍になるので、その面も低音再生能力に貢献しているだろう。
●JVC「ツインシステムユニット」
同社「HA-FXT」シリーズに採用の技術。こちらは2基の超小型ドライバーを並列配置。各ドライバーはそれぞれ中高域再生用と低域再生用にチューニングしてある。しかし前段でネットワーク回路によって中高域と低域の信号を分割してドライバーに送り込む「2ウェイ」構成ではない。あくまでもドライバー側のチューニングによって、それぞれの帯域を中心とした再生になるようにしてある。それでも両方のドライバーから実際に出る音はなだらかに重なっているのだが、それも「音の厚み」として生かすようにしてあることがポイントだ。
●TDK Life on Record「デュアル・ダイナミック」
同社「IE800」に採用の技術。こちらは口径の異なる2基のドライバーを奥行き方向にずらして同軸配置。中低域担当ドライバーと高域担当ドライバーという構成で、こちらも2ウェイという記載はない。高域担当ドライバーの振動板がチタンであるあたりにも注目。僕の印象としてはそのチタン振動板小口径ドライバーの高域の解像感を主役に、もう1基のドライバーで低域をサポートしているといった感じだ。
●KEF「Dual Dynamic Driver」
同社「M200」に採用の技術。構成としてはTDKのものとおおよそ共通で、口径の異なる中高域用と低域用ドライバーを同軸配置している。高域用ドライバーの5.5mmという径は、ダイナミック型ドライバーとしては本当に最小クラスだ。僕の印象としてはこちらは、低域用ドライバーの豊かな重量感を土台に、高域用ドライバーでシャープさや抜けも確保しているといった感じだ。
●Maxell「デュアルドライバ」
同社「MXH-DD600」に採用の技術。低域用8mmドライバーを奥に、中高域用6mmドライバを手前に配置。またその両者の中心軸をずらしてある。この配置にたどり着くまでに試行錯誤があったとのことだ。ネットワークによる帯域分割の2ウェイではなく、両ドライバーの特性のちがいによって担当帯域をなだらかに分けてある。その担当帯域が重なる部分の効果か、中域の自然な厚みが印象的だ。
次ページ続いては、BA型ドライバー構成についてまとめてみよう