[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第102回】“当世ポタアン事情” <後編> いまどきポタアン3機種まとめてレビュー
▼FOSTEX「HP-V1」
スマートフォンともパソコンともデジタル接続はできない「アナログタイプ」のわかりやすい例としてピックアップしたのがこちらのモデル。アナログ専用でデジタル回路は搭載していないのに今回取り上げる中ではいちばん高く、でかい。それはつまり、それだけのスペースとコストが純粋に、アナログアンプ部に投じられていることを示しているわけだ。
増幅素子として初段には真空管「6N16B-Q」を搭載。初段に真空管で最終出力段にオペアンプといういわゆるハイブリッド構成は、真空管の特性を生かしつつ駆動効率を稼ぐための定石だ。本機は充電式バッテリー駆動のポータブル機なので、サイズ的にも消費電力的にも駆動効率の確保は必須。
一方、電子回路の構築に必須でオーディオ回路においては音質への影響も大きい「コンデンサー」というパーツは、同社独自の大型のものを搭載している。電子パーツというのは限度はあるにしてもだいたい、大きい方が好ましい音だったりする。ここはこだわりポイントだろう。
では他のポイントを写真で見ていこう。
音質チェックはiPhone 5に「HF Player」、iPhoneのヘッドホン端子から本機にアナログ接続、イヤホンはShure「SE846」という環境で行った。
本機の最大の持ち味は質感描写だ。特にわかりやすいのはシンバル。暖かみのある荒いざらつきとでも言えばいいのか。ちょっと年季の入ってきたシンバルの実物を見たことがある方なら、まさに「ああいう感触が聴こえてくる」様子を想像してもらえればと思う。その一方でボーカルは、歌い手の声質との相性によっては、質感というか刺さりが強く出過ぎる場合もあれば、声の周囲の倍音感がいい感じに強まってリアリティを増す場合もあるといったところ。他の楽器だと、ディストーションギターの歪みの倍音感の豊かさもこの質感表現のおかげだろう。
この質感表現は、よく「真空管らしさ」と言われる部分だ。実際には、真空管を使えばそれで自動的にこういう音になるわけではないと思う。だが、いまどきあえてポタアンに真空管を搭載するというのは「真空管らしい音を狙って」のことだろう。そういう音を出すために全体がチューニングされていて、だからそういう音がする。そういうことではないかと推測する。
ギターは肉厚ぶりも好ましい。低域というよりは中域の充実による厚みと感じられる。しかし低音が弱いわけではない。ベースは曲によっては、中低域で膨らませることなくその下の低域にぐっと潜り込むような低さ深さを見せる。制動もがっしりとしており、スタッカート等によるリズムのキレもよい。
ちなみに、ものはついでとiPhone 5→DAC-HA200→HP-V1の3段重ねも試してみた。
…のだが、僕の印象としてはお互いの持ち味をうまく生かせない感じになってしまった。例えば「DAC-HA200の豊かな低音を生かしつつHP-V1でその低域をぐぐっと制動する」とかになってくれればよかったのだが、実際には「豊かさも制動感も単独使用よりちょっと落ちてしまってるかも…」と感じた。「組み合わせの妙」はオーディオの楽しみのひとつだが、だからこそ奥深く、簡単ではないということだろう。
しかしもちろん狙い通りにうまく行く組み合わせもあるはず。「そもそも3段とかもう『ポータブル』としてどうなの?」というのが常識的な意見だとは思うが、「俺は常識を…超える!」という方はいろいろと挑戦してみてほしい。
▼まとめ
というわけで、前回の「ポタアンの基本とポイントのまとめ」に続き「いまどきのポタアンの代表例をまとめてレビュー」な実践編をお届けした。個々の製品のレビューではあるがそれに乗じて、ポタアンの代表的なタイプや注目ポイントも押さえたつもりだ。ポタアン選び全般の参考にしていただけると嬉しい。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 |
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