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高橋敦が徹底レポート

フィリップス「A5-PROi」レビュー − “DJヘッドホンだからこそ高音質”の理由とは?

公開日 2014/10/24 10:45 高橋敦
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特筆すべき低域の再現性と立ち上がりの良さ

それでは本題の音だ。冒頭でも述べたがA5-PROiは「いわゆる低音強調DJヘッドホン」ではない。そもそも「DJヘッドホン=低音強調」というのが誤解ではあるのだが、DJ用とは別に「低音強調ヘッドホン」の流れもあり、それと混同されがちな面が強いのかと思う。

DJヘッドホンは“プレイヤー”であるDJが自らの演奏をよりクリアにモニタリングできることが第一。対して低音強調ヘッドホンは、一部のリスナーの好みを意識して作られている。とはいえ低音強調されているDJモデルもあるし、その方がモニターしやすいというDJもいるとは思うので、明確な境界線があるわけではない。

「クリアで正確なモニタリング」が可能であることは、オーディオ再生能力の高さにも直結する

しかし、このA5-PROiは明らかに前者の「クリアで正確なモニタリング」志向の音だ。結果として本機は実は「いわゆるDJヘッドホンは苦手」な方にこそむしろフィットする。そんな音のヘッドホンに仕上がっている。

マイクリモコン付きケーブルとカールケーブルを同梱。DJモニタリングと日常使いの両方を想定している

例えば、女性ボーカルとアコースティックギターの二人だけによるシンプルな編成の曲を聴いてみる。FAKiE「(They Long to Be)Close to You」「Ride on Time」だ。フラメンコ用のギターを力強くピッキングする、その音のスパッとした立ち上がりの再現性が光る。アタックが鈍らず、そのあとのボディ鳴りの中低域が膨らみすぎることもなく、リズムのキレがバシッと秀逸。DJプレイにおいてリズムの正確な把握は生命線のひとつであろうから、そこの確かさは当然なのかもしれない。しかしここまでのレベルで実現できているヘッドホンは、実際にはあまりない。

FAKiE『To The Limit』

空間表現と密度の高い再現を両立している点にも好印象

ボーカルの透明感や伸びも見事。高域側の歪みや濁りは感じられない。ボーカル自体の再現のクリアさもそうだが、その後ろで鳴っているギターとの分離のクリアさや、さらに背景の空間性のクリアさや広さといった要素も貢献しているだろう。またダイナミクス、歌や演奏の抑揚も豊かに表現されている。

この感触なら相性が良いはず、と次に聴いてみたのは喜多村英梨さん「掌 -show-」。プログレッシブ・メタルの影響を感じさせる複雑で高密度な曲だ。下手なヘッドホンで聴くとゴチャゴチャ詰め込んだだけの曲にも聴こえてしまうが、しっかりとしたヘッドホンで聴けば、その緻密な構築を感じられる。A5-PROiはその期待に応えてくれた。

喜多村英梨「掌 -show-」

この曲でオーディオ的に難しいところはまずは、複雑に踏まれるバスドラムだ。アタックをしっかり出さないとリズムのその複雑さがぼやける。アタックばかりで胴の響きが出てこないとヘヴィさが足りない。その響きがボワンとした低音になってしまえばリズムの明確さやスピード感が失われる。A5-PROiはそれらの要素をバランスよく満たし、中低音楽器においてもリズムを正確に把握できる音を実現。実に期待通りだ。

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