[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第114回】FitEarの「fitear」が僕のイヤーにフィットした件
■さて試聴!まずは付属イヤーピースで
では、普段使いで愛用しているものではあるが改めて試聴開始!まずは付属イヤーピースの中でいちばんフィットした通常タイプLサイズで試聴していく。
この強烈な抜けっぷり!スカッ!スパンッ!といった爽快な擬音がこれほど似つかわしいイヤホンは他にそうはない。上原ひろみさん「ALIVE」のドラムスのタイトで明瞭な様子。ベースもこれほど音程感、フレーズの動きが見えやすいイヤホンは稀有と言える。これはチタンステムのおかげだ!そうに違いない!(一抹の不安を胸にしまいつつチタンチタンと唱えている)
シンバルは、極めてシャープと薄刃なのに手応えが弱いとか繊細すぎる感じはしないという、これまた稀有な表現。高域の特定帯域で鋭さを出すのではなく、上まですっと綺麗に伸びているからこその音色感。ギター用チタンサドルで感じるその特性が、イヤホンになっても感じられる。…仮にチタンじゃなくても好ましい音だということに変わりはない。
また相対性理論「上海an」での、ギターのディレイ等の空間エフェクトの見え方、その展開や重なりの美しさも特筆できる。音抜けの良さもあって空間の余裕が大きい。その点はハイレゾリマスター版TM NETWORK「Beyond The Time」でも顕著。空間への音の配置の美しさ、立体感を堪能できる。
相対性理論「YOU & IDOL」と坂本真綾さん「30minutes night flight」にてボーカルをチェック。その鮮烈さは「すごい」の一言で片付けたくなるほどだ。先ほどシンバルについて述べた表現はこちらにも当てはまる。やくしまるえつこさんの声の質感をこれほど描き込みつつ、しかし嫌なざらつきは出さない。これは見事すぎる。
坂本真綾さんのこの曲でのあえて高音を刺す歌い方も、このように刺されたなら「…悪くない」とザーツバルム卿ばりに納得できるほどに見事な刺し方で届けてくれる。錆びたナイフでザクっと刺されるのではなく、研ぎ澄まされたナイフですっと刺される。真綾さんに刺されまくる快感を味わえまくるイヤホンだ。さすが真綾さんご本人のイヤモニを製作し、真綾さんの音楽もリファレンスとしているというブランドの製品。またどちらの曲でも共通してハイハットシンバルの質感が素晴らしく生々しく、キレも好い。
…なのだがこの時点では、見落とせない弱点もある。まず低域が不足しており、例えばリズムセクションのドライブ感といった要素は足りない。喜多村英梨さん「掌 -show-」のメタルサウンドの情報量やエッジ感は素晴らしいが重厚さは足りず、メイガス・トゥー 「BEAUTIFUL≒SENTENCE」のベースだとエレクトリックベースのスラップの弾けとシンセベースの重みのバランスが前者に寄ってしまう。また遮音性もいまひとつだ。
しかしそれら低域と遮音性の不足は、単に僕の耳との相性の話。このモデルについては付属イヤーピースから僕の耳にぴったりフィットしてくれるものを見つけられなかったのだ。そこが問題なく付属イヤーピースがフィットする人なら、それらの点も最初から気にならないだろう。
そこで今回は、レビューとしてはイレギュラーだが、他社のイヤーピースでの試聴も並行して行った。
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