[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第114回】FitEarの「fitear」が僕のイヤーにフィットした件
■大興奮のチタン製?ホーン形状ノズル
そして、fitearの音質音調の大きな鍵となっているであろう要素として、外観から容易にわかる唯一のものは、金属製のノズルだ。
このように美しいホーン的な形状を、イヤホンのノズル(ステム)で見かけることはあまりない。スピーカーでの印象がそのままイヤホンに通じるわけではないと思うが、オーディオ的に「ホーン型といえば抜けが良い」という先入観的なものからは逃れがたい。このノズルの造形だけでその音に期待してしまう。削り出しと思われる加工の精密感も魅力だ。
またこのノズル形状は、FitEar製品の中でもユニバーサル型モデル「Parterre」「fitear」だけの特権。カスタム型は各帯域の音をいくつかの経路に分割してノズル先端まで届ける、その点では一般的な構造を採用している(内部的には様々な工夫が凝らされているようだ)。もしかしたらこの点が「ユニバーサル型ならではのサウンド」を生み出してくれるかもしれない。
ノズルの素材は明らかにはされていないが、FitEarはチタン加工技術とその効果的な利用に強みを持つブランド。それが採用されていると期待するのは当然だろう。同社「F111」に採用の「純チタン削り出しのテーパードポートステム」の写真と見比べても違和感はない。実物の見た目の質感、触れたときの温度感(冬でもあまり冷たく感じない)もチタン的だ。
チタンは強度の割には軽い金属として知られる。加工性も含めて生産性の問題からアルミのように多用される金属ではないが、様々な分野でのここぞという箇所や場面に投入されている印象が強い。例えば…。
Apple「PowerBook G4」。ノートパソコンにフラット&スクウェアという潮流を生んだ名機だ。ここでは薄い板に仕上げた際の薄さと強度のバランスを評価されての採用と思われる。そして、TAMAのYOSHIKI氏専用ドラムキット。「Jealousy」以降のレコーディングの多くと、V2でのみ例外的にライブでも使用された、シェル(胴)がチタン製のドラムキットだ。ドライなのだが味気なくはない、YOSHIKI氏独特のサウンドに大きく貢献しているものと思われる。
そのチタン、みなさんもお手持ちのチタン製ギターサドル等を一般的なスチール製サドル等と持ち比べてみていただければわかると思うが、アルミほどではないが軽く、板か何かの上とかに落としてみると嫌な硬さを出さない綺麗な高音が響く。スチールからチタンにサドルを交換した際のギターの音色変化の印象としては、高域が綺麗に伸びて響くことで、高域はむしろ悪目立ちはしなくなる。しかし悪目立ちはしないが実はすすっと綺麗に伸びて、ハイファイ感は高まる。
さて、軽量さがイヤホンにも好ましいことは言うまでもない。音色感についても、楽器であるギターのサドルとしてはスチールの暴れる鋭さが好ましい場合も多いが、オーディオであるイヤホンとしてはチタンの綺麗に伸びてくれる感じが好ましい場合が多いだろう。というか僕はチタン大好きなのでもうそれだけで嬉しい。ここまでチタンチタンと語っておいて、「いやfitearはチタンじゃないですよ」ということも、情報非公開なのであり得ないことではないというのが不安なのだが…。