<山本敦のAV進化論 第72回>
【新旧対決】“ウォークマンAシリーズ”はどこが変わった? 機能や音質を比較チェック
■A20の音を聴く
今回A20シリーズは16GBのイヤホン付属モデルである「NW-A25HN」を借りて、比較用にA10シリーズの32GBモデルである「NW-A16」も用意した。ハイレゾの音源はmicroSDカードに入れて、これを入れ替えながら交互に聴き比べた。イヤホンには筆者のリファレンスであるソニーの「XBA-Z5」を使っている。
ジェーン・モンハイトのボーカル曲では、A20はA10よりもさらに中低域の見晴らしがクリアに良くなっている。声の周辺の付帯音がすっきりと取り除かれて、輪郭の精悍さが増した。滑舌も歯切れの良い、クールなボーカルだ。ハイトーンもより自然にすうっと伸びて、耳に心地良く馴染む。
マイケル・ジャクソンの楽曲ではロックバンドとボーカリストの位置関係がより鮮明に見えるようになった。音のディティールも立体的に浮かび上がってくるし、低域のリズムは輪郭の彫りが深い。
冒頭のエレキベースは比べて聴くとA10の方が少しこもっているように感じられてしまうぐらい、A20ではキレの良さが印象に残る。どの楽曲を聴いて比べてみても、やはり中低域の明瞭度は確実にA20で進化しているようだ。リズムの正確さやスピード感を増すことで、音楽のリアリティや緊張感も高まる。
オーケストラはトランペットの高域が伸びやかに広がり、輪郭線が滑らかになった。弦楽器の和音もエッジの解像感が上がって、緻密でシルキーなタッチだ。ピアニッシモで展開する旋律は、音のカタチがより鮮明に見えるようになる。
A20ではアコースティック楽器の音色がよりリアルに感じられた。ミロシュのクラシックギターは、弦が弾けるように軽やかに響き渡る。トレモロの粒立ちも鮮度が高い。A10がややおっとりとした雰囲気なのに対して、A20はより精悍で凛とした音のイメージだ。
小沼ようすけのジャズギターは、エレキベースやドラムス、パーカッションのサウンドとのセパレーションがますます明快になった。それぞれの楽器の音の印象が色濃く、強くなる。ギターの音はA10に比べてA20の方が少し音の線が細くなった印象を受けた。落ち着いたバランスに整うのだが、どこか元気な加速力が足りないようにも思う。当然ながら楽曲ごとに善し悪しの違いは出てきそうだ。
A10からA20へ、外観の変化は小さいながらも、音質の面では十分に違いを感じられる仕上がりになったようだ。付属のイヤホンによるノイズキャンセリング機能の効果と同じく、よりバランス重視の自然な聴感に近いサウンドを狙ってチューニングが行われたように感じる。今回からはハイレゾ再生時にもイコライザーがかけられるようになったので、よりファットなサウンドでロックやダンス系の音楽を楽しみたい場合はイコライザーをいじりながら自由に味付けしても楽しめるだろう。
ハイレゾ対応による音質面のステップアップだけでなく、ノイズキャンセリングやワイヤレスなど便利に音楽を楽しむための機能をしっかりと強化してきたところにソニーの底力と柔軟な対応力を感じるし、Aシリーズのエントリー機としての充実ぶりは他を圧倒するものがある。スマートフォンと比べて、音質やバッテリーライフなどの面で優位性はしっかりと実感できるし、ポータビリティも高いので「スマホとの2台持ち」に最適なプレーヤーとしておすすめしやすい。
次の課題は、若年層を中心とした音楽ファンのリスニングスタイルにもっとフィットさせるために、「アプリ対応」することではないだろうか。Aシリーズこそ、プラットフォームをAndroid化して、Wi-Fi機能も追えてLINE MUSICやAWAなど音楽配信のコンテンツをいい音で聴けるプレーヤーになってほしい。
筆者はiPod touchにAWAの楽曲をオフライン再生できるようダウンロードして聴いているが、同じような使い方がウォークマンでもできるようになれば、スマホとの2台持ちのモチベーションにもなる。Aシリーズはユーザーへの販売価格を手頃なレンジに収めるため、Androidの搭載が難しいということであれば、まあそれは納得できるとして、ならば何故、元もとはAndroid搭載だった「NW-ZX1」の後継機である「NW-ZX100」が組み込みOSになってしまったのか。筆者としては残念に感じている。そんな点についても、次回の「ZXシリーズ編」で進化のポイントを探りながら解明してみたい。
(山本敦)