【特別企画】評論家が音質傾向を語り合う
野村ケンジ×高橋敦がクリプシュ「X20i」を肴にぶっちゃけトーク。2ドライバーで音はどう変わった?
高橋 X10は、すごく穏やかでアナログ感のある感触というモデルでした。そんな音がBAドライバーから出ているという独特の存在感がファンに人気だった理由だったと思います。一方のX20iは、よりワイドでクリーンな方向にいっている印象ですね。
低域のスピード感で言えば、バスドラムのタイトさなどはX20iのほうが出ていて、X10はタイトというより横への広がりがもう少しある印象で、それが悪くない方向に出ているんです。そういう意味ではX10は音が豊かに聞こえて、X20iはより現代的な音の表現という感じですね。
− X10の延長線上ではなく、ハイレゾ時代になったことを受けた新たな方向性ということでしょうか。
高橋 クリプシュらしさを残しつつ、今っぽいクリアさというか、“密で濃い”というよりは、もう少しオープンにしてきた感じはしますね。でもこれが出たからX10の評価が低くなるかといったら、そんなことはなくて。キャラクターが異なるので、X10を持っている人には“買い替え”ではなく“買い増し”がオススメですね。
野村 ノイズレベルが低かったりダイナミックレンジが広いような、最近の新しい技術を使って録音された音源の魅力をより引き出せるのはX20iでしょうね。アナログっぽい音や女性ボーカルを近距離で味わいたいというときにはX10を使う、などという具合に使い分けるのがいいんじゃないかと。人の声をとことん美しく、いきいきと聴かせるというのはX10の魅力なので。
■X20iは「基礎体力の高い音源に凄く合う」
高橋 例えば僕がレファレンスにしている曲のなかでは、Robert Glasper Experiment(ロバート・グラスパー・エクスペリメント)の曲などは、X20iのほうが合っている印象ですね。リズムトラックにヒップホップ系のものが入っていて、低音が下に響いている楽曲です。X10ではそこを緩く広げて甘めにしてくれて、それはそれで魅力的なんですけど、X20iではそこがタイトになって、音源の響きや音の太さが分かりやすくなり、低音の空気感が見えるというか。音源が本来狙っているのであろうスッとした低音の速さ、量感になります。
野村 僕はFAKiE(フェイキー)を聴いてみました。これも合いますよ。今どきのレコーディング、マスタリング環境で、「S/Nやレンジ感がこれくらい出なきゃハイレゾじゃない」って感じの、基礎体力の高い音源には凄く合うでしょうね。
高橋 X10の方向性のまま、それも得るというのは相当難しいと思いますよ。
野村 そうなんだよね。X10は「こういう演出はいかがですか」っていう音で、X20iはもうちょっと音源に近い音という感じですね。ただ、クリプシュとしてのアイデンティはちゃんと保っていて、楽曲の起伏をキレ良く、グルーブ感を損なわず聴かせる感じは共通しています。逆にいうと、2ドライバーだけで、3つも4つもドライバーを積まなかったのは、そのあたりの歯切れの良さを重視したからなのかなと思いますね。