CR型フォノイコの音質も検証
新プリメイン「PMA-SX11」が示したデノンの次世代サウンドとは? 山之内正がレビュー
具体的な例をいくつか紹介しよう。最大の変化はやはり低音に現れていて、特にバスドラムやティンパニなど低音を受け持つ打楽器は、以前の塊感のある低音の芯の部分を生かしつつ、音が出る瞬間のアタックを鮮やかに描写して、皮の質感や張りの強さが以前よりもリアルに伝わるようになった。時間的には一瞬のことだが、立ち上がりの瞬間を正確に再現すると、同じ低音のなかでも楽器ごとの音色の違いが鮮明に聴き分けられるようになり、動きや起伏の豊かな演奏に生まれ変わる。エレキベースとバスドラムが同じ音域で動いているようなフレーズを聴くとわかりやすいが、オーケストラでもコントラバスとティンパニが弱音で重なる箇所などで、本機の進化を聴き取れるはずだ。音量を上げても低音のアタックがふらつかず、揺らぎのない低音を引き出すのも上級機譲りの美点と言える。
アタックが速くなったとは言っても、音の輪郭がことさら強調されることはない。女性ヴォーカルをサポートするウッドベースがゴリゴリとした感触にならず、自然なタッチでリズムを刻む様子が心地良いし、アコースティックギターが過剰にメタリックに響くこともない。エッジを強めて実在感を引き出すのではなく、発音の速さとキレの良さで小気味良くテンポが動いていく感触に好感を持った。ヴォーカルも子音が刺激的に刺さることがなく、あくまでも自然体。その方がかえって肉声感が生々しく伝わることに気付かされる。
もう一つの変化は、従来以上に広々とした音場を再現することで、特に、演奏会場のアコースティックを生かした録音では空間の見通しの良さが際立つ。音が放たれたあと、その余韻が空間を満たし、響きが浸透していく雰囲気は見事なもので、弱音や空間情報を忠実に引き出していることがうかがえる。回路同士を物理的に離したセパレート構造や入念な振動対策が功を奏し、微小信号の再現性が確実に向上しているのだ。普通に聴いていてもS/Nの良さは実感できるが、前の音が消えて次の音が出るまでの短い休符の部分でも、もやもやとしたところがなく、音にまとわりつく付帯成分が非常に少ないことがわかる。前作のPMA-SA11も繊細な表現を得意としていた記憶があるが、ノイズフロアが十分に低い本機は、さらに空間の透明感が高く、強弱のダイナミックレンジにも余裕が生まれている。
■レコードからはクリアかつリッチなサウンドを引き出す
最後にオーディオテクニカのカートリッジ「33EV」をつなぎ、アナログレコードを聴く。ジェニファー・ウォーンズの『The Well』はCDで聴く以上に一音一音の鮮度が高く粒立ちがクリアだが、ギターやベースはほどよく柔らかい音色をたたえている。声にも突っ張り感や硬さがなく、ほぐれた緩やかさが絶妙、良い意味で脱力した歌唱のうまさが自然に浮かび上がってくる。S/Nにも十分な余裕があり、ささやくような弱音も研ぎ澄まされた美しさをたたえていた。曲ごとの音調の違いを細かく再現することに加え、全体的なサウンドの印象として、クリアだが薄味にならないことに感心した。
ティツィアーティ指揮/スコットランド室内管のハイドンは、45回転でカッティングされていることもあり、窮屈さのない伸びやかなサウンドを堪能することができた。少人数のオーケストラで演奏しているとは思えないほど響きが豊かで、特にコントラバスは空気をたっぷり含んだ柔らかい音色が素晴らしい。以前ならレコードからここまで質感の高い音を引き出すのは至難の技だったが、最新の再生系を駆使すると、耳を疑うほどリッチなサウンドを楽しむことができる。最新録音とレコードの組み合わせが生んだ快挙である。
ラインナップの中核を担う製品だけに、熟成が進んだ落ち着きのあるサウンドを想像していたが、PMA-SX11の再生音からは次世代を担う新しい志向が感じられ、DCD-SX11とも方向性を共有していることがわかった。SX1とはひと味違う個性でデノンの新しい世代を担っていくことを期待したい。
(山之内 正)