山之内 正が現場レポート
ベルリンフィル デジタルコンサートホール制作現場は7年でどう進化した?パナソニックとの協業でどう変わる?
フィルハーモニーの大ホールは、ステージ上の反響板から遠隔操作で多数のマイクを下ろし、自在にセッティングできるように工夫されているのだが、特殊な編成の作品では、マイクの位置を楽器配置に合わせて手作業で追い込むなど、準備に相当な手間がかかる。DCHの中継でも多いときにはマイクの数が60本近くに及ぶというから、バランス調整の難しさは十分に想像がつく。
ステージ下手側最上部に位置する音声スタジオには、ドイツのStagetec社のデジタル・ミキシングコンソールが設置されるなど、7年前とは収録システムの一部が入れ替わっていた。
もちろん録音機材は192kHz/24bitや96kHz/24bitのハイレゾ録音に対応しており、ステレオに加えてマルチチャンネルのミキシング用に5.1chの再生システムも導入されている。DSDではなくPCMで収録しているのは編集プロセスを考慮してのことだと思うが、フランケ氏は「フォーマットの違いよりも、それ以外に音質を左右する要素がたくさんある」と説明する。もちろんDSDに関心がないわけではなく、4年前に行われたワーグナーの4K収録や昨年のDSDストリーミング配信の実験にもベルリンフィルは積極的に参加している。
音声スタジオのモニタースピーカーはB&WのMatrix 800シリーズとディナウディオを組み合わせていた。クラシックの録音環境としては標準的な構成だが、コンサートホールでここまで充実した設備を導入した例はそう多くない。
ここで収録したマスターは、DCHのライヴとアーカイヴに使用するだけでなく、自主レーベル「ベルリンフィル・レコーディングス」からリリースするパッケージメディアのマスターとして活用することもあるので、それを想定して可能な限り上位のフォーマットで収録する。ドイツでは依然としてCD規格で録音するレーベルやスタジオが多いなか、ハイレゾを重視するベルリンフィルは先進性でひときわ目を引く存在だ。
ここで紹介した音声スタジオの録音機材や編集システムは、パナソニック/テクニクスとの協業がスタートした後も、基本的には大きく変わることはないという。DCHやベルリンフィル・レコーディングスだけでなく、他のレーベルや放送局による録音も多いので、そのたびに別のシステムを使うのは現実的ではないし、映像系システムのように短期間で規格が変わる心配もないので、現在のシステムを継続して使うのは当然のことといえるだろう。
一方、システムを入れ替えなくても、配信クオリティを現在のAAC 320kbps相当よりもさらに高めることは、今回のパナソニック/テクニクスとの協業プロセスのなかで具体的に検討が進む可能性がある。そして、いずれはハイレゾでの配信も含め、さらなる高音質化を視野に入れているはずだ。現在すでに日本限定ながら一部音源のハイレゾストリーミングを始めているので、配信をサポートするIIJとのパートナー関係も念頭に置きつつ、DCHの高音質化に取り組んでいくと思われる。今後の動きに注目していきたい。