山之内 正が現場レポート
ベルリンフィル デジタルコンサートホール制作現場は7年でどう進化した?パナソニックとの協業でどう変わる?
音声スタジオでミキシングされた音声は、ステージをはさんで上手側の映像スタジオにデジタルで伝送され、映像信号と組み合わせてサーバーに送られる。映像スタジオの機材は7年前とは大半が入れ替わっていたが、カメラのコントロール装置など、映像信号の規格に影響のない機材のなかには当時と同じ機器を使っている例もあり、当時のスタジオ風景を懐かしく思い出した。7年前に比べると液晶モニターの台数が明らかに増えているが、それぞれのモニターにはステージをとらえた7台のビデオカメラの映像が同時に映し出されている。
DCHスタート後の数年間は720pで収録し、その後2012年秋頃から1080pのフルハイビジョンに移行していった。720p時代はビデオカメラなど撮影機材の多くがパナソニック製だったが、2012年秋にソニーとの協業が始まった後、ソニー製の機器に入れ替えてフルHDに移行した経緯がある。今回またパナソニックに戻るわけだが、いずれにしても日本製の放送機器がDCHをバックヤードで支えている事実に変わりはない。ベルリンフィルが技術面で日本企業と積極的にパートナーを組むのは、クオリティと技術の先進性を評価しているためだろう。
音楽と調和するカメラ切換のノウハウに8年間の蓄積を感じる
機材は入れ替わっているが、基本的な撮影方法は2009年当時からほとんど変わっていない。7台のカメラは映像スタジオから遠隔操作され、基本的に一人のオペレーターが7台のカメラの切替え操作を行う。スコア(総譜)に基づいてカメラの位置と切替のタイミングはプリセットするのだが、演奏のタイミングと厳密に合わせなければならないので、実際には映像監督の指示でアシスタントがキューを出す。カメラのオペレーター以外にビデオエンジニアも待機しているので、ライヴ中継のときはスタジオ内に5〜6名のスタッフが常駐するという。
実際に演奏が始まると、リハーサルであらかじめ組み立てたシーケンスに沿って適切なタイミングでキューを出し、カメラを切り替えていくプロセスが進んでいく。その様子をフランケ氏は「経験を積んだエンジニアやオペレーターが緻密に操作するプロセスは時計の内部のように精密です」と表現していた。2009年には、同じフランケ氏が「実際の収録の際はカメラ位置の指示などが飛び交い、戦場のような緊張感に包まれる」と表現していた。張り詰めた緊張感はいまも同じだと思うが、「戦場」から「精密時計」に進化したのは7年間の経験の賜物だろう。
クラシック作品は撮影前にカット割りの大半を決められるとはいえ、実演ではすべてリハーサル通りというわけではなく、ハプニングが起こることもある。そして、DCHの製作陣は、カメラを切り替えるタイミングはもちろん、ズーミングやパンニングのスピードを音楽の流れと調和させることにも強くこだわっている。
演奏を映像で収録する際、そこがまさに肝心な点で、カメラの切替や移動が不適切だと、演奏への集中が妨げられることすら起こり得る。普段何気なく見ている演奏風景の映像も、その舞台裏ではまさに真剣勝負と呼ぶべき集中力で収録が行われているのだ。