山之内 正が現場レポート
ベルリンフィル デジタルコンサートホール制作現場は7年でどう進化した?パナソニックとの協業でどう変わる?
スイッチャーやコントローラーなど、この映像スタジオの主な機材とステージ周辺のカメラは、2017年夏にパナソニックの4K機器に入れ替わる予定だ。ソニーとの協業がスタートした2012年春にもベルリンフィルの演奏を4Kカメラで収録したことがあったが、それはあくまで試験的な試みだった。当時のインタビューを読むとよくわかるが、まずはフルHD化が当面の課題という段階で、4Kストリーミングを検討するほど技術は進んでいなかった。その5年後、撮影機器の4K対応が現実になり、4K&ハイレゾ配信に向けて一歩を踏み出したことはとても感慨深い。
さきほど紹介した製作手法は、おそらく4K時代になっても大きく変わることはないだろう。遠隔操作でカメラを動かすシステムを導入したのは、聴衆だけでなく、オーケストラのプレイヤーがカメラの存在を意識せず、演奏に集中できるような環境で収録することがそもそもの目的だ。演奏家の意見を尊重しつつその撮影方法を工夫し、完成度を高めたのが、まさにDCHの製作チームなのだ。フランケ氏をはじめとするベテランのプロデューサーやエンジニアにはその自負があるので、機材やパートナーが変わっても、基本的な製作手法を変えることはないはずだ。そもそも2009年当時、デジタル・コンサートホールの発想自体が新しく、手本とすべきシステムはどこにも存在しなかった。
当時のインタビューでは、「誰かがやらないと始まらないことです。ベルリンフィルは、始めるだけの理由があってやっているんです」(2009年9月トビアス・メラー氏談)という発言が印象に残っている。7年後のいま、ベルリンフィルメディア代表のロベルト・ツィマーマン氏は「他のオーケストラや音楽祭もDCHのようなサービスを提供するようになりましたが、ベルリンフィルはその動きを歓迎しつつ、最先端技術を積極的に導入することで、さらに一歩先を目指します。サービスの品質を高め、クオリティ面でもストリーミングサービスの最先端を牽引していきます」と力強く語る。この2つの発言から、新しいことに果敢にチャレンジする姿勢を読み取れるが、それは演奏におけるベルリンフィルの姿勢と完全に一致するところが興味深い。
ベルリンフィルとパナソニックの協業は、今後の数年間で大きな成果を上げるだろう。パナソニックはすでに映像コンテンツ製作の技術サポートで豊富な経験を重ねているが、今後は音楽コンテンツについても存分に力を発揮してもらいたいものだ。また、今回のパートナー関係で得たノウハウは、日本やアジアをはじめとする世界中のオーケストラや演奏家が同様なサービスを展開する際にも役に立つ可能性がある。それを実現するためにも、息の長いパートナーシップの構築を期待したい。