各モデルの素性をくっきりと描き出す
これぞ真のリファレンスモニター!AKG「K872」と注目ヘッドホンアンプ4機種を組み合わせレビュー
■SONY「TA-ZH1ES」
SONYがその持てる能力を全て投入したと思わせる高スペックなヘッドホンアンプ/USB-DAC「TA-ZH1ES」(製品詳細)。デジタルアンプで生じる信号誤差をアナログ回路で補正する、新開発のデジタルアンプ回路「D.A. Hybrid Amplifier Corcuit」を搭載し、DSD 22.4MHzやPCM 768kHz/32bitなどのハイフォーマット音源に対応することも特徴だ。
この組み合わせでは、中域のしっかりとした骨格感のある音を聞くことができる。「ダイアナ・クラール」を聞くと、「TA-ZH1ES」の備える情報量がかなりのものだということがわかる。安易に迫力を増したような音とは正反対なモニター基調の音を備えている。
特にDSD11.2MHz音源のRYU MIHOには驚いた。素晴らしい密度感で、イントロのピアノがしっかりと鳴るところは、DACの個性をそのまま表現していて素晴らしい。ウイスパーボイスのボーカルをそのまましっかり再生する。
もう一つ良いなと思ったのは、頭内センターに定位する音像がとても自然であること。ボーカルとリバーブ成分の描き分けがここまで正確に表現できたヘッドホンアンプとヘッドホンの組み合わせは、ほとんど聞いたことがない。
本機は、組み合わせるヘッドホンアンプ、いわゆる上流の音の音調や音色を全てあからさまにしてしまう、これぞスタジオモニターの音と言える性能を備えている。ヘッドホンアンプ別に試聴してみた音の印象は、それこそ各製品が持っている音そのものである。
今回のヘッドホンアンプには当てはまらないが、例えば情報が多く聴こえた場合、それが聴感上作られたものなのか、実際に一音一音の情報量の多さからくるものなのかさえわかってしまうだろう。モニターヘッドホンと言っても多かれ少なかれ固有の音質を持つが、トーンバランスはフラットで低域が強調されていない所も良い。そして、高域から低域、各帯域の癖を全て写実してしまう事にも感心した。
余談ではあるが、開放型の「K812」との音質/音色的な差を書き残しておきたい。音色やトーンバランスなどに注目して聴くとキャラクターは近く感じた。低域の力強さは「K812」の方が若干上だが、前記した通りしっかりフィットすればそこまで変わらない印象である。センターに定位するボーカルなどの距離感は「K872」の方が近く、ダイレクトに感じる。音の広がりは「K812」に譲るが、楽曲が持つ、本来のサウンドステージで考えると違和感はない。また、密閉型という構造をとることにより、通常の音楽リスニングの音量でも細やかなニュアンスがしっかりわかるのも良い所だ。
「K872」を使用すれば、手持ちのヘッドホンアンプの真のポテンシャルを体感できるだろう。また、このヘッドホンをベースとしてヘッドホンアンプを選ぶのも大いにありだ。モニターライクなモデルと組み合わせれば、ソース音源の音を全て聞き出すことができるし、音楽性の優れた滑らかな音色を持つモデルと組み合わせれば、リスニング用途として高音質で音楽を楽しめる。評論家目線では、ここまで正確な表現が可能であればケーブルなどの比較試聴にも重宝しそうだ。ヘッドホンファン、そしてスピーカーで原音再生を狙うファンにも是非一度聴いてほしい逸品である。
【試聴曲】
・アニソン
「fripSide - 『infinite synthesis 3』 (FLAC 96kHz/24bit)」
・クラシック
「アンドレア・バッティストーニ - イタリア・オペラ管弦楽・合唱名曲集(FLAC 96kHz/24bit)」
・Jazz
「マイルス・デイヴィス - 『Round Midnight』 (FLAC 44.1kHz/16bit)」
・女性Jazzボーカル
「ダイアナ・クラール『Wallflower』(FLAC 48kHz/24bit)」
・女性Jazzボーカル
「Ryu Miho『Call me』 (DSD 11.2MHz DSF)」