[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第183回】JH Audioのイヤホン新シリーズ「Performance Series」登場!3機種一斉レビュー
典型的なイヤーモニターの音作りとしてスッと思い浮かぶのは、例えば「フラットバランスで全体像を忠実に再現。クリアな音像でアタックや音程を正確に伝えることで、プレイヤーの演奏をサポートする」といったところではないだろうか。たしかにRoxnは、その要件も満たさないわけではないが、その枠に収まっていないことも明らかだ。
では、そのRoxnの音作りはどのような考え方によるものと推察できるのか。僕としては「ステージモニター『スピーカー』から叩き出され広がる音、そして『ステージ』そのもの空気感までの再現」を狙ったものではないかと思う。
一般的なイヤーモニターが狙うのはスピーカーから出る前の音声信号への忠実性。対してRoxnは、巨大なスピーカーから出た音がステージから観客席まで会場の空気を響かせている臨場感、そこまでの再現をターゲットにしているように思えるのだ。
単純に「音の聴き取りやすさ」という意味でのモニター性能では前者の方が上かもしれない。しかしプレイヤーの中にはステージの空気や温度を感じてこそ演奏しやすい、力を発揮できるというタイプも存在する。ロックでは特にそうだろう。「いやそりゃあ全部の楽器がバランス良く聴こえないのは困るけどさぁ、そんなことよりまずベースやバスドラがドンと響かないと楽器の音に聴こえなくて気合入らないよ」みたいな。Roxnの音作りはそれに応えられるものだ。
具体的な曲での具体的なポイントも挙げておこう。ペトロールズのミディアムテンポのロックナンバー「表現」との相性は特に良いと感じた。スモーキーというか洒落たハードボイルド感というか、明るくクリアにお届けされてしまうとちょっと違うなという、このバンドの音のそういった雰囲気とのマッチングが素晴らしい。
ペトロールズはそこを意識して聴けば、かっちりとしたリズムで実に的確な演奏を繰り広げているバンドでもある。しかしリスナーの意識が自然とそこに向くような演奏ではなく、印象としてはむしろ気怠さが前に来る曲も多い。この曲もそうだ。Roxnはその緩さもしっかり適当に表現してくれる。「適当に」とは「気怠くしすぎることもない」という意味だ。
例えば、ベースはスタッカートをピタッと決めすぎず、音のキレに少しだけ遊びを残す。そのおかげでかっちりしすぎず程良くおおらかで、大きなグルーヴを感じられる。往年の大口径ウーファー搭載スピーカーのような雰囲気でもある。しかしそこをスタッカートで演奏している意図、それによって生み出されるグルーヴを根本的に変えてしまうほどには遊ばせない。曲や演奏の個性と自らの個性を合わせて落とし込むのが巧く、そして美味い。