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“特別な存在” サージェントの魅力も解説

『サージェント・ペパーズ』50周年記念盤は何がどう変わったのか? ハイレゾやBDなど全曲徹底解説

公開日 2017/05/26 00:00 大橋伸太郎
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それでは内容を見てみよう。再生開始するとバックに「サージェント…」タイトル曲と「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」が交互に流れメイン画面が表示、AudioパートとVideoパートに分かれている。

Videoパートは4チャプターで構成、「ザ・メイキング・オブ・サージェント・ペパーズ」、発表当時のプロモーションフィルム(現代のビデオクリップ)3種、「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」「ペニー・レイン」だ。

「ザ・メイキング…」は、イントロ+全曲解説でアルバムの背景と製作プロセスを回顧する約50分のドキュメント。1992年製作は「アンソロジー」と重なる。昨年鬼籍に入ったジョージ・マーティンが証人にして語り部である。

インタビュー先はポール、リンゴの他まだ存命だったジョージ・ハリスン、さらに「サージェント…」成立へ音楽上の啓示を与えた海の向こうのライバル、ブライアン・ウィルソン(ザ・ビーチボーイズ)、「サージェント…」に深い影響を受けた次世代のミュージシャンの代表にフィル・コリンズが登場する。

インタビューシーンはカラービデオ撮影だが、’90年代の映像にしてはややノイズが多い。随所に挿入される1967年の映像の大半はモノクロスタンダード。BDの音声はPCMステレオ48kHz/24bit。一方のDVDは、量子化ビット数がダウンしPCMステレオ48kHz/16bit。

「ストロベリー…」(四人が野原でサイケなピアノと一日戯れる)と「ペニー・レイン」(かつてジョンが住んだペニー・レインを四人が白馬に乗って散策する)のプロモフィルムは有名だが、「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」のプロモフィルムは初めて見た。

題名曲でのオーケストラとのセッション風景とロンドンの怪し気なソワレ(夜宴)の情景をモンタージュしたストロボ効果多用の「いってる」映像で、ミック・ジャガーと当時の恋人マリアンヌ・フェイスフル(可愛い!)、キース・リチャーズらが顔を出す。「愛こそはすべて」のクリップの不健全版といった印象だ。

BD音声は、DTS-HD MASTER AUDIO 5.1、DOLBY TRUE HD 5.1、PCM STEREOのロスレスHDオーディオ三種だが、特筆大書すべきは全て96kHz/24bitのハイレゾであること。後述するが、サラウンドもステレオも音質はよい。

一方のDVD音声は、ロッシーのDTS 5.1、DOLBY DIGITAL、LPCM ステレオ(48kHz/24bit)に止まる。

次にAudioパート。「サージェント…」全曲と「ストロベリー…」「ペニー・レイン」のリミックス音声が収録。BD音声は、DTS-HD MASTER AUDIO 5.1 96kHz/24bit、DOLBY TRUE HD 5.1 96kHz/24bit、PCM STEREO 96kHz/24bitの三種。Videoパート同様、DVD音声はロッシーにグレードダウンする。

Audioパートを再生した場合、映像に『サージェント…』のアルバムアートワークが表示され、BDは音楽に合わせてCGで線画に色が付いたり消えたり塗り絵的に変わって行くが、DVDの場合、完全なスチルだ。

映像ディスクで最も注目されるのが、BDのAudioパートの5.1chロスレスハイレゾ音声による『サージェント…』全曲再生。サラウンド嫌いの音楽ファンにこそ聴いてほしい新鮮な『サージェント…』だ。

ザ・ビートルズの他のアルバム、例えば『フォー・セール』や『ラバー・ソウル』をサラウンドで聴いても面白くなさそうだが、『サージェント…』そして『リボルバー』は違う。コンサート活動を停止しアルバム制作に全エネルギーとアイデアを傾注した時期の作品で、自由な実験精神と遊び心に満ちているからだ。

といっても、今回の5.1ch音声は音源が360度グルグルパンしたりはしない。立体効果を誇張せず音場の拡張深化を狙った、自然な包まれ感の、優しい佇まいの音空間だ。解像度アップで音色が生彩と色彩感を増していることも注目。「音楽に浸り時空をトリップする」アルバム本来の狙いが50年後のテクノロジーで蘇った。

「ザ・メイキング・オブ・サージェント・ペパーズ」のジョージ・マーティンは、スタジオのミキシングコンソールのノブを上下し、ヴォーカルトラックと楽器のトラック、さらに効果音のトラックのバランスを変えてみせ、いかに多くの音のエレメントと実験精神がこのアルバムに詰まっているかをカメラに向かって喜色満面に語る。「ストロベリー・フィールズを最初にジョンが弾いて歌った時、十分に素敵な曲だった。しかし、彼らはそんなことで満足しなかったのだ。」

その結果、『プリーズ、プリーズ・ミー』の318倍の時間が録音に費やされた。「(新作が何カ月も途絶えている)ザ・ビートルズはもう駄目になったのか?」と音楽ジャーナリズムが陰口を叩いていた時、アビイ・ロード・スタジオの密室の向こうでは、果てしない音楽の実験が続行されていた。

『ペット・サウンズ』はブライアン・ウィルソン一人の孤独な実験作業だった(録音時、弟たち=ザ・ビーチボーイズは日本公演の最中だった)が、『サージェント…』は四人とジョージ・マーティンの合作だ。さらにEMIの擁する優れたミュージシャン(金管奏者、弦楽奏者)やマル・エヴァンス初めビートルズギャング達のサポートがそこに加わった。実験のスケールと物量が違う。

その結果完成した時のインパクトも桁違いだった。当時のレコード録音技術の全てが傾注された『サージェント…』は「演奏の記録」という旧来のレコードの価値観を乗り越え、録音音楽の可能性に挑戦したエポックメイキングな作品だ。しかし、選良のための排他的な芸術になることを潔しとせず、良質なエンターテインメントであることを片時も忘れていない。

<スーパー・デラックス・ボックス・セット>のセッション集を聴いていて筆者は深く感銘を受けた。「ゲッティング・ベター」「ラブリー・リタ」はポールの書いた曲だ。しかしスタジオで演奏の指揮をしているのはジョンだ。そう、「ポールの曲」でなく「俺たちの(ザ・ビートルズ)の曲」なのだ。

アルバム『サージェント…』発売でザ・ビートルズの影響力と名声は頂点に上り詰めたが、「ジョージ・マーティン氏の最高傑作」という某新聞のアルバム評に彼らはひどく腹を立て、自身が設立したアップルレコードによる次回作「ザ・ビートルズ」ではセルフプロデュースの道を模索する。その時、彼らのまとめ役だったマネジャー、ブライアン・エプスタインはすでに世を去っていた。バンドの絆は失われ次第にジョンの曲はジョンの、ポールの曲はポールの曲に変わって行く…。

『サージェント…』セッションの多くのベーストラックに耳を傾けてほしい。聞こえてくるのは、気合いが籠もって引き締まった四人一体のグルーヴィなバンドサウンドだ。壮大な実験精神と現役ばりばりのロックバンドサウンドの掛け算が生んだワンアンドオンリーな奇跡的な音楽作品『サージェント…』。初めて「50周年記念エディション」の栄誉を担った理由はそこにある。

世界的アナログブームの最中に発売の「50周年記念エディション」には、2枚組LP仕様(180g重量盤)も用意される。今回の紹介に間に合わなかったが、機会をあらためユニバーサルとファイルウェブ編集部のご協力を得て、筆者のイギリス初出モノラル盤(PMC7027)、日本初出ステレオ盤(オデオンOP-8163)と音質の比較を試みてみたい。

機会を改めて、「50周年記念エディション」の2枚組LPと、オリジナル盤の比較を行いたい

【試聴システム】
CD
プレーヤー:ヤマハ「CD-S3000」
プリアンプ:アキュフェーズ「C-2850」
パワーアンプ:アキュフェーズ「P-6000」(×2)
スピーカー:B&W「802 Diamond」
スピーカーケーブル:SUPRA「SWORD」

BD/DVD
プレーヤー:OPPO「BDP-105JLTD」
AVアンプ:デノン「AVR-X6300H」
フロントスピーカー:B&W「802 Diamond」
センタースピーカー:B&W「HTM2 Diamond」
サラウンド、サラウンドバック:B&W「636」(×4)
スーパーウーファー:KEF「PSW2500」
スピーカーケーブル:サエク「SP-850」「SP-650」

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