空間表現に長けたバランス良いサウンド
徹底して良い音を目指した“最強のエントリー”を謳う、Unique Melody「MACBETH II Classic」レビュー
音の濃さ厚み、力強さといった要素は、これよりさらに下の価格帯のモデルでも十分に充実している製品が少なからず登場してきている。ならばその上に来る、本格イヤモニタイプのエントリーモデルとしては、それらでは味わえないサウンドを提供したい。それが「空間性」という要素であり、今回のドライバー構成やチューニングはそれを狙ったものではないか。
…というのは僕の憶測なので、メーカー側の意図は全くこういうことではないかもしれない。しかしこのモデルのサウンドの魅力、これより下の価格帯のモデルからのステップアップとしてこのモデルを選ぶ理由としては、そういった捉え方もありと思う。
■上質な高域と空間表現で、ハイエンドの領域が垣間見える
抜けや広がりといった空間表現、そしてスパッとした音キレもすばらしいので、そういった要素が欲しい曲との相性は特に良い。
悠木碧さん「サンクチュアリ」は悠木碧さんの声だけ、その歌やオーケストレーションなどで構築された作品。そもそも曲自体が豊かな空間性を備えているが、まず5.1サラウンドにミックスダウンした音源をビクタースタジオのサラウンドシステムで再生し、その再生音をダミーヘッドマイクを使ってバイノーラル録音してステレオに落したという凝りに凝った制作手法もあって、すさまじい空間表現を秘めている音源だ。
このイヤホンはその空間をやや明るめに照らし出し描き出してくれる。すっきりと抜ける音がはっきりとした空間に広がる様子は、ハイエンドの領域を垣間見せてくれる。
相対性理論「夏至」もまた空間表現にも優れた作品だが、ここでは個々の音に注目してみよう。まず女性ボーカルやハイハットシンバルでは、シャープだけれど嫌な刺さり方はせずに耳心地良く、「これぞ上質な高域」を確認することができる。このくらいの価格帯になれば「シャープ」か「心地良い」かの二択ではなく「シャープで心地良い」を求めたいわけだが、それにきちんと応えてくれる。
録音物に限らず女優さんや声優さん、身の回りの女性の声で、「高めで鋭い声なんだけれど妙に耳触りが良いなあ」なんて人は思い浮かぶだろうか。そういう声をそのまま再生してくれそうな、そんな高域表現をこのモデルは備えている。
ベースやドラムスの低域部分は、必要十分に確保されているが少し軽めではある。だが音が明るめで抜けが優れているので、トータルとしては「アタック明瞭でリズムくっきり。音程感も明瞭だからベースラインも楽しみやすい」と、これはこれで魅力的だ。歌を主役としたポップスでのバンドサウンドなどは特にバランス良好。
逆にポップスにしてもロックにしても、「ヘヴィ」「ラウド」「ディープ」といったワードで表されるようなサウンドの再現は得意ではないかもしれないが、苦手というほどでもないので、聴く曲の幅が広い方でも大きな不満は感じる場面はあまり無いだろう。
MACBETH II Classicの持ち味は、空間表現という新たな強みを軸にしつつ、トータルバランスも整えたサウンドにある。価格的にという話だけではなくこのサウンドを聴くことで、エントリーユーザーであれば、イヤホンにおける抜けや広がり、空間性とは何かを体感できるだろう。そのことは後々に役立つはずだ。そういった観点からも、魅力的なモデルが増えている現在のこの価格帯を代表して、「最強のエントリー」の一角を担うに値するモデルである。