話題のコンパクトDAPの駆動力はいかに?
Lotoo「PAW Pico」の駆動力を検証 ― 想像以上に幅広いタイプを鳴らし切る
■密閉型大型ヘッドフォンの持ち味をしっかりと引き出す
続いては密閉型ヘッドホンの高級機、オーディオテクニカ「ATH-A2000Z」を試してみた。インピーダンスは44Ω、感度は101dB/mWと比較的鳴らしやすいモデルである。
実際PAW Picoに繋いで聴いてみると音量感も問題なく、ヌケ良くクリアでスムーズなサウンドを得ることができた。ピアノやホーンセクションは細身で華やかな響きを持つ。オーケストラは立ち上がりの空気感をリアルに再現し、密度の厚いハーモニーを艶ハリ良く華やかに表現。ホールトーンの豊潤な響きも心地よい。ローエンドはむっちりとした弾力を持ち、ウッドベースのしなやかな指運びと胴鳴りの響きをリッチに演出。ヴォーカルは爽やかかつクールな艶感が加わり、口元のハリを潤いよく滑らかに描く。
ハイレゾ音源ではより音像の輪郭がカリッとした解像度の高さを際立たせ、高域にかけての倍音成分を煌びやかに描く。ロックのリズム隊も引き締め強く、キレ鮮やかでボーカルもソリッドに浮き立つ。S/Nの良さも感じられ、個々のパートをほぐれよく爽やかに描写。音像定位のフォーカスも明瞭で、音場の見通しも深い。ATH-A2000Zの本領とまではいかないものの、密閉型ながらも音離れ良く広く爽やかな空間表現を得意とするその持ち味をきちんと感じさせてくれた。
最後に「どこまで鳴らしきれるか」ということを試すべく、本機とはあまり組み合わせが想定されないであろう300Ωのハイインピーダンス機であるゼンハイザー「HD800 S」を繋いでみた。標準ケーブルはφ6.3mmプラグであるため、φ3.5mm変換プラグを使うことになるが、PAW Pico本体が単3型電池1本と同じくらいの重量であるため、まるでDAP本体も変換プラグの一部であるかのような印象を受ける。結論を先の述べてしまうとさすがにHD800 Sはインピーダンスが高すぎたようで、音量がMAXでもかなり出音が小さい印象であった。
これまで試聴してきたモデルは比較的制動力高くドライブしていたが、HD800 Sでは少し引き締めが弱くなり、穏やかさが前面に押し出されることになる。とはいえ、ロックのリズム隊もふっくらと伸び良くスムーズで、ホーンセクションやピアノの響きはシャープで軽やか。オーケストラの音場に関してはナチュラルにまとめあげており、楽器との距離感や残響感はリアリティが高い。ヴォーカルは落ち着き良く滑らかな描写で、全体的に耳あたり良いサウンドとしている。
■想像以上に幅広いタイプのヘッドフォンを駆動できる対応力
PAW Picoはそのコンパクトな見かけによらずイヤホンからヘッドホンまで、想像以上に幅広い範囲のモデルを駆動できることが体感できた。むろん今回組み合わせたHD800 Sの例のように限界はあるものの、積極的に屋外に持ち出すケースで考えられる密閉型ヘッドホンとの組み合わせでは十分な駆動力を得ることができるだろう。もちろん、イヤホンにおいてはさらに対応範囲は広く、カスタムIEMのような一般的には鳴らしにくい分野のモデルでも問題なく再生できることもメリットだ。
また本体にディスプレイを持たず、Bluetooth接続したスマホからのアプリ操作で楽曲選択を行うという発想も理にかなっている。比較的大きなヘッドホンとPAW Picoを組み合わせ、本体を直に操作しているさまはどことなくアンバランスに映るが、その音声経路から隔離されたスマホからのリモートコントロールで楽曲選択できるのであればそうした見栄えも気にすることなく、実に快適だ。サイズを超えた高音質・高機能を実現したPAW PicoはハイレゾDAPのエントリー機という枠には収まらない、まさに“小さな巨人”といえるだろう。(岩井 喬)
■試聴音源
・飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』〜第一楽章(96kHz/24bit)
・花村恵理香『ツィガーヌ〜ヴァイオリン名曲集〜』〜シャコンヌ(192kHz/24bit)
・『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』〜届かない恋(2.8MHz・DSD)
・デイヴ・メニケッティ『メニケッティ』〜メッシン・ウィズ・ミスター・ビッグ(CDリッピング:44.1kHz/16bit)
・シカゴ『17』〜ワンス・イン・ア・ライフタイム(192kHz/24bit)
・長谷川友二『音展2009・ライブレコーディング』〜レディ・マドンナ(筆者自身による2.8MHz・DSD録音)
・Suara「キミガタメ」11.2MHzレコーディング音源(5.6MHzに変換)