DAC/プリとパワーアンプ
PS Audioの新時代を切り拓く、DAC/プリ「Gain Cell DAC」とパワーアンプ「S300」をレビュー
DAC部はどうだろうか。デジタル入力はUSB-B(XMOSレシーバーを使用)、同軸デジタル、光デジタル、DMPとのHDMI接続に用いる独自の「I2S」を備える。これら入力はいずれもジッターを低減するために、FPGAのメモリーにデータとクロックを貯め、高精度クロックに同期させる「Digital Lens」(リクロックのような回路)を経由して、DACへ入力される。これは、同社が格別にこだわっている高音質化の手法である。
DACチップはESSの「ES9010K2M」で、100MHzクロックを外部から注入する。このチップに100MHzという高いクロックを注入することで、内部のジッター低減回路の効果が最大限に発揮されるのである。D/A変換されたアナログ信号は、高域ノイズを除去するパッシブ・ローパスフィルターを経由してGain Cellに接続され、アナログ出力される仕組みとなっている。
また、本機の電源部には大型トロイダル・トランスを配置し、高品位な電源を各所に供給している。
■独自のA級増幅素子とICEpowerを組み合わせた「S300/M700」
次にクラスDパワーアンプ「S300」「M700」であるが、S300はステレオ方式、M700はモノラル方式となる。いずれも入力段には無帰還クラスA・ディファレンシャル・ディスクリート構成の増幅素子「Analog Cell」を採用する。これは本機のために新規に開発されたA級差動増幅回路による高速/高音質アンプモジュールで、アナログらしい瑞々しく豊かな倍音再現を可能にする。
出力段には、B&Oの高音質クラスDアンプモジュール「ICEPower」を採用したアンプモジュールを搭載。入力信号はAnalog Cellでまず増幅され、最終的にはICE Powerで増幅される仕組みだ。
なお、ICEpowerを採用した出力段のモジュールは、ドライバー段/PWM変調器/MOSFETスイッチング増幅素子/ローパスフィルター/電源部を内包。Analog Cellにもこの電源が、直近のローカル電源で適正な電圧に変換されて供給される。また、アンプ内での全ての工程はアナログで、優れた周波数特性を実現。従ってこの構成では、通常のクラスDアンプで必要とされるスイッチングノイズを除去するための外付けローパスフィルターを設置する必要がなく、回路を簡略化できる。
また、ICEpowerの特性により、50kHzまで伸びる高域特性と極めて高いダンピングファクター(1100/8Ω)も実現している。
Analog CellとICE Powerがそれぞれモジュール化されているのでシンプルな回路構成となるが、このように分析すると、実に濃い内容であることが理解できる。
なお、今回の試聴ではステレオ仕様のS300を使用したが、6.2kgと実に軽量でありながら、140W/8Ω、300W/4Ωという出力を確保している。モノラル仕様のS700の出力は700W/4Ωとなる。いずれも入力は、RCAアンバランスとXLRバランス入力を装備している。
■Gain Cell DACとS300を組み合わせて試聴する
Gain Cell DACにS300を組み合わせて試聴を行った。スピーカーシステムには、TAD「TAD‐ME1」を使用した。まず、アキュフェーズのSACDプレーヤー、DP-720を接続し、バランス入力の音を聴いた。
実に耳に馴染む、中低域に厚みを持つ音質に好印象を憶えた。十分な空間性を備えた、少し暖色系のナチュラルな音に魅了された。プリアンプとしての音がとても良いのだ。マイルス・デイビスのライブのCDを再生すると、トランペットやサックスの響きの鮮度が高く、ドラムスからは、高い音圧を感じとった。空間性が高いことも特筆すべきことである。