米国のハイエンドブランドに再評価の機運
GRADOの最高峰ヘッドホン「PS2000e-balanced」レビュー。アンバラと聴き比べて分かった実力
■標準機でも十分に味わえる開放的なGRADOサウンド
試聴ではソニー「TA-ZH1ES」を用意し、標準仕様のアンバランス接続と、PS2000e-balancedによるバランス接続を比較してみた。
まずアンバランス接続時だが、GRADOらしくハリ良く艶やかな、開放的なサウンドである。フラグシップらしい落ち着きと穏やかさを伴った安定感を味わうことができる。オーケストラは個々のパートがほぐれよく、スッキリとヌケ良く旋律が展開。ローエンドは太くふくよかでどっしりとした印象を与えている。弦の艶やかな倍音感に嫌味がなく、丁寧な描写力だ。
アコースティックギターは胴の太さをしっかりと捉え、重心を低くまとめ、弦の厚み、爪弾きの煌びやかさもナチュラルだ。ウッドベースはむっちりとした胴鳴りの響きを前面に押し出し、存在感豊か。ボーカルもハリ艶良く口元の輪郭を描き、滑らかで自然なウェット感を湛えている。定位感は自然で、位相表現も的確だ。
ドラムの密度感、ホーンセクションの鮮明な張り出し、ピアノの太くどっしりとした響き、いずれもリッチな傾向で、艶良くしなやかな質感を得ることができた。情報量も多く、きめ細やかな描写力を軸としながら、おおらかで押し出し良い中低域の充実感はGRADOらしい溌溂とした表現といえる。
■確実に感じられるグレードの向上、GRADOの個性をさらに魅力的に
続いてPS2000e-balancedを視聴する。
TA-ZH1ESのD.A.ハイブリッドアンプが持つメリットを的確に反映しているようで、歪み感の少ない音離れの良いサウンドが展開。バランス駆動化における音質変化の振れ幅も非常に大きく、アンバランス駆動時は良くも悪くもGRADOらしさを感じたが、バランス駆動ではGRADOらしい色合いや個性を残しつつ、サウンドのグレードが数段上昇した印象である。
分解能の高さも印象的で、ドラムセットの個々のパーツから放たれるキレ良く粒立ち細かいアタック感が実に爽快だ。音場のS/N感も向上しており、音像の滲み感、低域方向の豊かな広がりが引き締まって分離の良いクリアな空間が目前に浮き上がる。
ボーカルはしなやかさに磨きがかかり、口元の輪郭感もより明確に描き出す。ロックのリズム隊も深くグリップし、タイトなアタック感を聴くことができる。しかし単に硬いというわけではなく、質感そのものは抑揚良く丁寧に表現するため、キツさには繋がらない。
オーケストラは高域方向の爽やかさと低域の締まり良くクリアな描写によってヌケ良くストレートな響きが広がる。余韻の描写も音の消え際を的確に捉え、丁寧にアタックの質感も描き出す、リアリティの高いハーモニーを味わえた。
ホーンセクションの純度も高く、立体的。シンバルワークの澄んだ響きはシングルエンド時の数段上を行くリアルさだ。キックドラムやウッドベースの響きは弾力良く締まっているが、弦の艶やかさも適度に感じられ、滑らかな指の動きが一際鮮やかに浮き立つ。音離れの良さも格別で、高域の華やかな響きは過度に煌かず、落ち着いた上品な輝きとして捉えられた。
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