PIEGA Factory Tour
ピエガ本社工場訪問記 −スイスを代表するスピーカーブランドのいま
どこで聴いても「音楽が鳴る」サウンド
こうして一通り、ピエガの本社件工場を見てきて、ふたたびリスニングルームへ戻ってきた。ここまで見てきたピエガのスピーカーをいよいよ音でチェックする。
「私としては、ピエガのスピーカーのなかでもCOAX 711が最もバランスの取れたサウンドが鳴ると思います」とバラビオ氏は話していたが、この日音を聴いたスピーカーの中で特に印象に残ったのは、取材時では最新モデルとなったCOAX 711だった。
例えば、ここ最近の音源に多い低域成分を多く含んだ音源を聴いた時の印象である。どうしても低域成分が多いため、これまでは低域の情報のみが悪い意味で強調される体験をすることが多かったのだが、COAX 711で聴いたそれはこの低域と中高域のタイミングがピッタリと揃っている。つまり時間軸で高域から低域まで揃ったサウンドということで、そのサウンドからは初めてこの音作りに込められた「グルーヴ」の意味が感じられたほどだ。リズムという意味で楽曲を捉えた場合、ここまで身体を捉える再現性ができるスピーカーは少ない。これは音のアタックやリリースが、全帯域でしっかりと捉えられていると言い換えることもできるだろう。
この印象は、クラシックやロックといった異なるジャンルを聴いても同様だ。つまり、演奏の間合いや音の間にある空気感が俄然意味を持った表現に感じられてくるのである。これは結局のところ、時間をかけて作られるリボンユニットと、それに合わせて開発されたユニット、そしてエンクロージャーが極めて高い次元でバランスしているということを意味しているのである。
そして、もうひとつやはり印象的だったのは、Master Line Source 2(取材時はまだMASTER LINE SOURCE 3の姿はなかった)。試聴前に、「スピーカーの前で頭を動かして見てください」とバラビオ氏。驚いたのは、その高さ方向への追随性と音場表現だ。頭の位置を変えても音場は変化することはなく、ステージイメージはまるで部屋の天井が高くなったかのよう。ここで思い出されるのは「リビングでも音楽をどこまで楽しめるか」というMaster Line Sourceのテーマだが、頭の位置が変わっても高いレベルでぶれない表現をするMaster Line Source 2は、ピエガの思い描く音楽再生を最も体現しているものと言える。「誰でも最高の音楽体験を」とはよく聞く言葉かもしれないが、これは言うに優しく、行うに難しを地で行くものだ。Master Line Source 2のサウンドからは、まさにそんなピエガの理想を垣間見ることができた。この音を聴くと、さらにスリム化させた上で進化させたMASTER LINE SOURCE 3のサウンドも期待して間違いないものであることを確信してしまう。