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ヤマハが掲げる「True Sound」を体現する新プリメイン登場。“5000シリーズ”から連なる思想と音を聞く
■5000シリーズの思想を深いレベルで引き継ぐプリメイン「A-S3200」(山之内)
ヤマハは2年ほど前にセパレートアンプのC-5000/M-5000を完成させた。スピーカーのNS-5000に続き、アンプも5000シリーズがフラグシップの役割を担う時代が到来したのだ。その後ターンテーブルのGT-5000も発売され、一貫した再生システムが完結した。
その次にヤマハが挑んだ課題は、それはプリメインアンプの製品群を最新世代に入れ替えることだった。C-5000/M-5000の開発時に得た多くのノウハウを投入すれば、発売から6〜7年が経過したA-S3000やA-S2100/S1100を大幅にブラッシュアップできると分かっていたのだ。
今年の春、いよいよそのプロジェクトが日の目を見ることになった。プリメインアンプ上位モデル群のモデルチェンジに踏み切り、A-S3200、A-S2200、A-S1200の3機種を一気に投入したのだ。外見に大きな変更はないが、上級機から受け継いだ技術やノウハウを要所に採り入れることで、中身は新しい世代に生まれ変わっている。ヤマハがオーディオ機器開発のコンセプトに掲げる「ミュージカリティ(音楽性)」がどう具現化されているのだろうか。
5000シリーズの設計思想を深いレベルで引き継いでいるのが、前作(A-S3000)と同じくプリメインアンプの最高峰に位置付けられるA-S3200である。ヤマハのアンプ技術の要であるメカニカルグラウンドとフローティング&バランスアンプのコンセプトを徹底し、低インピーダンス化をさらに追求した結果、ぶれのない堅固な音像と見通しの良い澄んだ音場を両立。その安定感は、優れたアーティストの演奏スタイルを連想させる。
力強さと繊細な表現力が備わるアーティストの演奏を注意深く見ていると、身体の無駄な動きや力みがなく、必要最小限の運動から合理的かつ効率的に最良の音と演奏表現を引き出していることに気付く。意味のない身体の動きでエネルギーを逃さず、力や動きを音楽に集中させる方が力強い音楽表現ができるし、音の浸透力も高まるのだ。
それはアンプなどオーディオ機器にも当てはまる。特にアンプは大小さまざまな部品がスピーカーの音圧を含む外来振動の影響を受けやすい。アンプが音楽信号の増幅に専念するためには、堅固な構造で余分な振動を遮断し、空間情報など微小な信号を埋もれさせず、忠実に再現することが不可欠なのだ。共振などでエネルギーの浪費が生じると、立ち上がりが鈍ったり、余韻の混濁が起きてしまう。その結果、躍動感が伝わりにくくなったり、エモーショナルな表現が後退するなど、重要な要素が失われてしまうのだ。さらに、低音を歯切れよく再現するうえでも、振動のコントロールは重要な役割を担う。
■動的な解像力が高く、量感豊かな低音を引き出す
今回聴いた音源で具体例を紹介すると、まずはストゥールゴールズ指揮、BBCフィルのショスタコーヴィチ交響曲第11番が分かりやすい。弦と金管が競うように短い音符を刻んで切迫した雰囲気を作り出すなか、ピッコロの鋭いフォルテシモが耳を強く刺激する。躍動感と異常なテンションの高さで劇的効果を生み出すという作品の本質を見事に描き出した演奏だが、その一番の聴きどころは一音一音に込められた強い緊張感だ。特にNS-5000で聴くと、金管楽器やピッコロの密度が高く、エネルギーが減衰しないまま音が届く様子が生々しい。
低弦はチェロよりもコントラバスの比重が高く、重量級でスケールが大きい。NS-5000の30cmウーファーはここぞというところで強靭かつパワフルな低音を繰り出すのだが、そこまでの低音を引き出すにはアンプの駆動力が物を言う。A-S3200はM-5000譲りの量感豊かな低音を引き出しつつ、重く引きずるような低音とは一線を画す。動的な解像度の高い低音はヤマハのアンプが受け継いできた美点の一つだが、A-S3200もその例外ではない。
A-S3200のシャーシは構造体としての堅固な作りに磨きがかかっている。電源トランスやブロックケミコンを分厚いベースに固定し、3mm厚の真鍮製ベースプレートを介して、真鍮削り出し材を含むレッグで確実に支える。固定ビスをシャーシのフレームに直接溶接するなど、レッグの素材と構造をさらに吟味したことは、今回5000シリーズから受け継いだ手法の一つとして見逃せないポイント。シャーシのフレームやボトムプレートを介して堅固に接地するアプローチが、まさにレッグの部分で完結するからだ。ここで妥協したら努力が水泡に帰してしまう。そんな思いを込めて、凝った作りの部品をあえて採用したのだろう。
堅固なシャーシと万全の制振対策が威力を発揮しているのはたしかだが、その手法を突き詰めると、もう一つの設計コンセプトである「開放的な音(OPENNESS)」と矛盾してしまうのではないかと、ふと疑問が浮かんだ。ところが、実際はその矛盾は起きていない。さきほどオーケストラの例で紹介したように、A-S3200の音は耳にまっすぐ届く浸透力があり、音場が窮屈に萎縮している様子はまったくない。楽器の配置は立体的だし、ジャズのアンサンブルなど、プレーヤーの間で飛び交う即興的なやり取りまでよく見える。
5000シリーズから受け継いだ技術との関連でその理由を探ると、低インピーダンス化の徹底が思い当たる。パワーアンプ基板からスピーカーターミナルに至る内部配線材が良い例だ。今回、線径を従来の2.1mmから2.7mmに拡大しているのだが、ここにはM-5000と同じPC-Triple Cの極太線材を奢ったという。大電流が流れる接点のネジの素材を鉄製から真鍮に変えたこともそうだが、地道と呼びたくなるこれらの取り組みが、実は音のたたずまいを大きく左右することがあるのだ。
ジャズの音源でプレーヤー同士のインタープレイがよく見えると書いたが、これは1976年に録音されたアナログ音源『Jazz at the Pawnshop』で、今回はGT-5000でレコードを聴いた。A-S3200が内蔵するフォノイコライザーアンプの素性の良さもあるのか、演奏現場のざわめきや聴き手の反応を生々しく再現し、いきなりライブ会場に連れて行かれたような臨場感を味わった。
空気が見えるような臨場感の例をもう一つだけ紹介しておこう。コレッリの室内ソナタにエイヴィソン・アンサンブルが取り組んだ録音で、今回はアキュフェーズの「DP-750」をつないでハイレゾ音源を試聴した。パヴロ・ベズノシウクのヴァイオリンを中心にアーチリュート、チェンバロ、チェロが参加したトリオ・ソナタ形式の演奏だ。立ち上がりが速く、音色を引き分ける対比が鮮やかという古楽器の長所を存分に引き出しつつ、もう一つ聴き逃がせないのがステレオ音場を満たす柔らかい余韻の質感だ。各楽器の直接音はもちろん鮮明に聴き取れるが、それ以上にハーモニーとして溶け合った響きの美しさに耳を奪われた。