[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域【第272回】
アクティブスピーカーを小音量&高音質に鳴らす!モニターコントローラー「Baby RAM」に注目
そこで、ノブを下げなくても音量を下げられるようにと導入したのがJVCの減衰用アダプター「AP-121A」と「AP-122A」。ピンプラグ/ピンジャックの間に挿入することでそれぞれ-10dB、-20dBの減衰を得られる固定抵抗アッテネーターだ。これをDACからPC-1eの出力、PC-1eから6010Bへの出力に挟むことで、ノブ10.5時↖以上で小音量を得ることに成功。
しかしお察しの通り、すると今度は音質面に問題が……。パッシブでの音量減衰を二重三重に行えば当然だ。特に高域は、実際に損失している分と、小音量になるほど高域を感じにくくなる人間の聴覚特性の合わせ技か、もうがっつり削れてしまう。減衰アダプター導入直後は「使いやすくなった!」と喜んでいたが、しばらくして「音、悪くなってるよね?」と気付いてしまったときのがっかり感よ……。
ということで、それからしばらくは、音量調整をしやすくすれば音質が残念、音質を復活させれば音量調整が残念、という狭間を彷徨っていたのだが……。
出力調整のまさにプロ、モニターコントローラーに注目
いつまでも放置はできない。問題が音量調整で生じているのは明らかなのだから、その役割を担う機材を見直せばよいのだ。
音量調整を担うアイテムといえば、オーディオ的にはいわゆる「プリアンプ」がそれに該当する。しかし今回セレクトしたHeritage Audio「Baby RAM」はオーディオのプリアンプではない。アクティブスピーカーと同じくプロオーディオ向けの機材である、「モニターコントローラー」というジャンルの製品だ。
モニターコントローラーとは、音楽制作環境において、モニタースピーカーへの出力音量の調整、複数のスピーカーへの出力切替、複数機器からの入力切替などの役割を担う機材。多機能製品にはDACやヘッドホンアンプも搭載されていたりする。
オーディオのプリアンプと機能的に重なる部分も多く、オーディオファンのユーザーニーズにもフィットする場合も少なからずだろう。なのでオーディオファンもぜひ注目してみてほしい。実際、今回も検討範囲をモニターコントローラーにまで広げたことで、Baby RAMという筆者のニーズにジャストフィットな製品を見つけることができた。
ちなみにオーディオファンにはDAC/ヘッドホンアンプの印象が強いかと思われるSPLやGRACE designといったメーカーも、そもそもはプロオーディオが主戦場で、モニターコントローラーも得意分野としている。
Baby RAMが小音量領域に強い理由&実測確認
ではなぜ、そのように優秀製品が居並ぶモニターコントローラーの中からBaby RAMを選んだのか? それは、今回の目的である「小音量領域での使いやすさ」と「音質の向上」を「いちばん手頃な価格で実現できそう」な製品だったからだ。
というのもこのBaby RAM、アクティブではなくパッシブ回路、当然DACも非搭載、ヘッドホンアンプも非搭載。つまり、モニターコントローラーとして最小限の機能しか持っていない。だからその最小限の機能部分は高品質でありながらも、価格は抑えられている。
そして、筆者の場合は、DACやヘッドホンアンプは別途にあるので不要。機能が最小限なのはむしろ大歓迎なのだ。それにシンプルなモニターコントローラーの良品はいま確保しておけば、今後長らく買い替えの必要もないだろう。長期的に見てのコスパは極めて優秀そうだ。
だが本題はあくまでも、小音量領域での使いやすさと音質。そこに優れていることこそ、Baby RAMを選んだ最大の理由だ。
改めて状況を確認しよう。筆者の旧環境における小音量時の諸問題の根本的原因は、「一般的な摺動式可変抵抗器は、抵抗を絞り切る手前の可変が扱いにくく、それを使ったパッシブ式ボリュームコントローラーは、小音量域での音量コントロールが苦手」「ステレオの音量調整に使う2連ポットでは、製造誤差によってその2連の両側で抵抗値がズレがちで、そのズレによって特に極小音量時に左右の音量差が目立ちやすい」ことにあった。
つまり筆者は、Baby RAMならばその問題を解消できると見込んで導入したわけであり、実際その問題は解消された。それはなぜか?
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