【特別企画】KT150のダイナミックかつしなやかな表現力を引き出す
真空管アンプの常識を超える強力な駆動力。トライオード「EVOLUTION MUSASHI」、脅威の鮮度とスピード感
真空管アンプブランドとして知られるTRIODE(トライオード)に、新たなラインナップが加わった。高出力ビーム管「KT150」をプッシュプルで採用し、強力な駆動力と使いやすさを実現した「EVOLUTION MUSASHI」である。真空管アンプの枠を超えた、ダイナミックで力強いサウンドのポイントを土方久明氏が解説する。
国産オーディオメーカーのトライオードから、真空管式プリメインアンプのニューモデル「EVOLUTION MUSASHI」が登場した。本モデルは、2019年発売の同社初となるKT150真空管を搭載した「MUSASHI」を、音質と機能の両面で進化させた気鋭のモデルだ。
EVOLUTION MUSASHIについては、先に発売された2つのモデルを抜きには語れない。ひとつは上述の先代モデルの存在だ。定格出力100W+100W(8Ω)とハイパワーで、往年のスピーカーからローインピーダンスな現代スピーカーへの対応力が高く、空間表現力など、音質面でトライオード製アンプの新境地を開いた初代MUSASHIである。
そしてもうひとつが、2022年2月に発売された出力管にKT88を採用した「EVOLUTION」の存在。大型のLED表示部が設置された現代的なデザインと、リモコン機能で電源のON/OFFやボリュームコントロールを可能にした、同社アンプのユーザビリティをこれまで以上に高めた存在だ。
トライオード代表の山崎順一氏は、 MUSASHIの優れたオーディオ特性とEVOLUTIONのユーザビリティの融合を思いつき試作機を製作したところ、良好な結果が得られ、正式に開発を決意したという。
シャーシデザインは一連のEVOLUTIONシリーズ同様大きく進化した。フロントパネル中央部には、赤色のLEDによる大型ディスプレイが設置され、その左右に電源/セレクターとボリュームノブを配置したモダンで押し出し感のあるデザインにインパクトを受ける。
そして現代のスピーカーをしっかりと駆動するために高出力アンプは必要との見解から、使用する真空管は引き続きKT150を採用。AB級プッシュプルの回路構成も初代MUSASHIを踏襲し、100W+100W(8Ω)と見事な高出力と広大な周波数特性、6Hz〜80kHz(-3dB)を達成している。
KT150の銘柄は、ロシアで製造されるTUNG-SOL(タング・ソル)で、トライオードでは同ブランドの真空管を、品質の安定性が高く、音質的にも広帯域でダイナミックな表現を持ちながら、同時にしなやかさや透明度も持ち合わせていることから5年以上前から採用。前段は12AU7×4本となる。
出力トランスはトライオードオリジナルのオリエントコア材/無酸素銅巻線120W級トランスを採用。電源トランスも大型のもので、KT150へ600Vの電圧を供給している。
音質に関わる重要な進化点として、EVOLUTIONシリーズに採用された日清紡マイクロデバイス製MUSESシリーズの電子ボリュームを搭載したことを挙げたい。入力回路の近くにボリュームを配置することが可能となり、信号経路の最短化を実現。より鮮度の高い信号伝送が可能となった。また、小音量時に特に気になる左右の音量差、いわゆるギャングエラーも発生しない。
入力端子は、RCAシングルエンドが4系統備わるほか、入力セレクターとボリュームをバイパスし、パワーアンプに直結できるMAIN IN入力も用意される。
付属の電源ケーブルは、同社製のもので、導体にディップフォーミング無酸素銅(DF-OFC)を使用した高品位な電源ケーブル(TR-PS2)が付属していることは同社らしい気が利いた配慮だなと感じた。
ここからは試聴に入るが、Bowers&Wilkinsの3ウェイの大型フロア型スピーカー「803 D4」と組み合わせ、試聴ソースにはCDおよびハイレゾファイルを用いた。
従来のMUSASHIが持っていた、音質的優位性を残しながらその枠からもう一歩脱却したような音がする。まず感じ入ったのはスピーカー駆動力の高さ。KT150が持つ、カチっとした締まりのあるディテールが全体域に作用し、特に803 D4が搭載する2発の180mmウーファーの立ち上がりが良い。
あまり大袈裟に描きたくないのだが、この制動力はダンピングファクターの高いトランジスターアンプに近い気さえする。ここはプッシュプル構成による100Wのパワーがものをいっている部分だろう。シングル構成のアンプとはいかないまでも、中音域から高音域は滲みが少なくシャープなディテール表現を持ち、そしてどのジャンルを聴いても力強い音がする。
高SNで、Dレンジ、Fレンジが広く、現代楽曲への耐性は高い。1月に登場したノラ・ジョーンズのシングル『Running』は、音色についてはニュートラル傾向で、眼前にキリリと引き締まる音像が出現し、個々の音の力感が出ている。特にタイトで引き締まった力強い低域とピアノの立体感の写実が見事だ。
EVOLUTION MUSASHIは立体的な空間描写も得意とするので、クラシックとの相性も良く、グスターボ・ドゥダメル/ロサンゼルス・フィルハーモニックのアルバム『ドヴォルザーク:交響曲第7・8・9番』はサウンドステージの広さに加え、高さや奥行き方向の表現にも長けている。
そして、大きく向上したのが使いやすさだ。大型の表示部により、ボリューム数値や入力切り換えポジションが一目で分かる。
天面にはバイアスメーターとバイアス調整ボリュームを装備しており、ユーザーはメーターを目視しながら簡単にバイアス調整ができる。
付属リモコンはアルミ削り出しで高級感があり、音量調整、電源ON/OFF、ミュートに加えて、ソース切り換えが可能なのも嬉しい。
いかがだったろうか、初代モデルが持つスピーカー駆動力の高さに加え、瑞々しい鮮度のサウンドによってレファレンス性も大きく向上している。
真空管アンプとしてのスピーカー駆動力の高さは目を見張るものがあり、コンポーネントオーディオの大きな楽しみである「スピーカーをアンプが十分に駆動した時の感動」を得ながら、真空管サウンドの魅力である鮮度の高さとスピード感も与えてくれる。使いやすさが大きく向上した、実に見どころが多い真空管アンプである。
余談となるが、トライオードはアフターサービス部門が充実しており、購入後のフォローも手厚く、愛機を長期間使用できるということも高く評価したい。
(提供:トライオード)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.192』からの転載です。
ユーザビリティとオーディオ特性の両立にチャレンジ
国産オーディオメーカーのトライオードから、真空管式プリメインアンプのニューモデル「EVOLUTION MUSASHI」が登場した。本モデルは、2019年発売の同社初となるKT150真空管を搭載した「MUSASHI」を、音質と機能の両面で進化させた気鋭のモデルだ。
EVOLUTION MUSASHIについては、先に発売された2つのモデルを抜きには語れない。ひとつは上述の先代モデルの存在だ。定格出力100W+100W(8Ω)とハイパワーで、往年のスピーカーからローインピーダンスな現代スピーカーへの対応力が高く、空間表現力など、音質面でトライオード製アンプの新境地を開いた初代MUSASHIである。
そしてもうひとつが、2022年2月に発売された出力管にKT88を採用した「EVOLUTION」の存在。大型のLED表示部が設置された現代的なデザインと、リモコン機能で電源のON/OFFやボリュームコントロールを可能にした、同社アンプのユーザビリティをこれまで以上に高めた存在だ。
トライオード代表の山崎順一氏は、 MUSASHIの優れたオーディオ特性とEVOLUTIONのユーザビリティの融合を思いつき試作機を製作したところ、良好な結果が得られ、正式に開発を決意したという。
電子ボリュームの採用など新しい技術を積極的に投入
シャーシデザインは一連のEVOLUTIONシリーズ同様大きく進化した。フロントパネル中央部には、赤色のLEDによる大型ディスプレイが設置され、その左右に電源/セレクターとボリュームノブを配置したモダンで押し出し感のあるデザインにインパクトを受ける。
そして現代のスピーカーをしっかりと駆動するために高出力アンプは必要との見解から、使用する真空管は引き続きKT150を採用。AB級プッシュプルの回路構成も初代MUSASHIを踏襲し、100W+100W(8Ω)と見事な高出力と広大な周波数特性、6Hz〜80kHz(-3dB)を達成している。
KT150の銘柄は、ロシアで製造されるTUNG-SOL(タング・ソル)で、トライオードでは同ブランドの真空管を、品質の安定性が高く、音質的にも広帯域でダイナミックな表現を持ちながら、同時にしなやかさや透明度も持ち合わせていることから5年以上前から採用。前段は12AU7×4本となる。
出力トランスはトライオードオリジナルのオリエントコア材/無酸素銅巻線120W級トランスを採用。電源トランスも大型のもので、KT150へ600Vの電圧を供給している。
音質に関わる重要な進化点として、EVOLUTIONシリーズに採用された日清紡マイクロデバイス製MUSESシリーズの電子ボリュームを搭載したことを挙げたい。入力回路の近くにボリュームを配置することが可能となり、信号経路の最短化を実現。より鮮度の高い信号伝送が可能となった。また、小音量時に特に気になる左右の音量差、いわゆるギャングエラーも発生しない。
入力端子は、RCAシングルエンドが4系統備わるほか、入力セレクターとボリュームをバイパスし、パワーアンプに直結できるMAIN IN入力も用意される。
付属の電源ケーブルは、同社製のもので、導体にディップフォーミング無酸素銅(DF-OFC)を使用した高品位な電源ケーブル(TR-PS2)が付属していることは同社らしい気が利いた配慮だなと感じた。
ディテールの再現性に長けた中高音と制動力ある力強い音
ここからは試聴に入るが、Bowers&Wilkinsの3ウェイの大型フロア型スピーカー「803 D4」と組み合わせ、試聴ソースにはCDおよびハイレゾファイルを用いた。
従来のMUSASHIが持っていた、音質的優位性を残しながらその枠からもう一歩脱却したような音がする。まず感じ入ったのはスピーカー駆動力の高さ。KT150が持つ、カチっとした締まりのあるディテールが全体域に作用し、特に803 D4が搭載する2発の180mmウーファーの立ち上がりが良い。
あまり大袈裟に描きたくないのだが、この制動力はダンピングファクターの高いトランジスターアンプに近い気さえする。ここはプッシュプル構成による100Wのパワーがものをいっている部分だろう。シングル構成のアンプとはいかないまでも、中音域から高音域は滲みが少なくシャープなディテール表現を持ち、そしてどのジャンルを聴いても力強い音がする。
高SNで、Dレンジ、Fレンジが広く、現代楽曲への耐性は高い。1月に登場したノラ・ジョーンズのシングル『Running』は、音色についてはニュートラル傾向で、眼前にキリリと引き締まる音像が出現し、個々の音の力感が出ている。特にタイトで引き締まった力強い低域とピアノの立体感の写実が見事だ。
EVOLUTION MUSASHIは立体的な空間描写も得意とするので、クラシックとの相性も良く、グスターボ・ドゥダメル/ロサンゼルス・フィルハーモニックのアルバム『ドヴォルザーク:交響曲第7・8・9番』はサウンドステージの広さに加え、高さや奥行き方向の表現にも長けている。
バイアスメーターも搭載し使い勝手にも配慮
そして、大きく向上したのが使いやすさだ。大型の表示部により、ボリューム数値や入力切り換えポジションが一目で分かる。
天面にはバイアスメーターとバイアス調整ボリュームを装備しており、ユーザーはメーターを目視しながら簡単にバイアス調整ができる。
付属リモコンはアルミ削り出しで高級感があり、音量調整、電源ON/OFF、ミュートに加えて、ソース切り換えが可能なのも嬉しい。
いかがだったろうか、初代モデルが持つスピーカー駆動力の高さに加え、瑞々しい鮮度のサウンドによってレファレンス性も大きく向上している。
真空管アンプとしてのスピーカー駆動力の高さは目を見張るものがあり、コンポーネントオーディオの大きな楽しみである「スピーカーをアンプが十分に駆動した時の感動」を得ながら、真空管サウンドの魅力である鮮度の高さとスピード感も与えてくれる。使いやすさが大きく向上した、実に見どころが多い真空管アンプである。
余談となるが、トライオードはアフターサービス部門が充実しており、購入後のフォローも手厚く、愛機を長期間使用できるということも高く評価したい。
(提供:トライオード)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.192』からの転載です。