【特別企画】TIASのトライオードブースで試聴イベントを予定
“SLの音”を真空管アンプで聴く!「大きな鉄の塊の移動感に感情を揺さぶられる」
「SLの音をオーディオで聴く」。オーディオ評論家の石田善之氏も、そんなロマンに魅せられた一人である。かつては「鉄道の音」を録音するために世界を旅していたこともある石田氏だが、今年は東京インターナショナルオーディオショウのトライオードブースにて、「管球アンプでSLサウンドを聴こう」イベントの講師を担当する。イベントの予習として、トライオードアンプでSLの音を聴いたレビューをお届けしよう。
7月26日より開催される東京インターナショナルオーディオショウのトライオードの会場で、「管球アンプでSLサウンドを聴こう」というイベントが開催される。それに先駆け、当日予定している機材を用い、内容の一部と使用機材を紹介したい。
まずはテーマとなるSLサウンドの魅力だが、SLのサウンドをスピーカーから聴く喜びはどこにあるのか、というところから進めよう。
日頃聴いている音楽とは全く異なった音素材であり、最も異なるのはステレオを活用した「移動感」で、乗り物特有の味わいだ。ステレオ空間の中に、左右への広がりや奥行きだけでなく、動きも伴うことが最大の違いと言えよう。
SLというと汽笛がよく知られる音だが、機関車の走り出しや長い貨車を引いて山道を登る「勾配区間」のドラフトにもダイナミックで凄まじいものがある。SLが動き出す、つまり発車の時は汽笛が鳴り、高らかにドラフトが響くが、続いて吐き出す白い湯気は「ドレーン」と呼び、超低域から超高域まで実に幅広い周波数が含まれていて、再生には広い周波数レンジが必要とされる。
さらに機関車には動輪と動輪を結ぶ「ロッド」があり音が出る。レールの継ぎ目を刻む音やきしみ音なども伝わる。スピードが加われば地鳴りのような重低音になるのである。さらに遠くから聴こえる汽笛は山々に反射してエコーとなり、録音が良ければその大空間は2本のスピーカーの外側にまで広がって再生される。オーディオ機器にもこうしたSLサウンドをより心地よくしかもダイナミックに聴かせることが要求されることになる。
今回のイベントで使う機材の一部をここで紹介すると、まずは広い会場で大勢の方々がダイナミックな味わい堪能するためにアンプにはパワーが必要だ。この6月に一新された100W+100W(8Ω)の「EVOLUTION MUSASHI」が使用される。
前面は大型ディスプレイに変わり、これまでのバイアス確認のための丸メーターが上面に移動している。内容として大きく変化したのはプリ部が一新されたこと。特に音量調節は電子ボリュームとなり、リモコンも使えるようになった。このずっしりと重いアルミ削り出しのリモコンはパワースイッチや、音量に併せて入力の切り替えもできるし大型ディスプレイの照度を変更するディマーも兼ねている。
ただし、今回のイベントは「EVOLUTION PRE」と組み合わせるため、EVOLUTION MUSASHIはパワーアンプとしての使用となる。前作の音質はやや力強さが強調されていたようだったが、新たに滑らかさやしなやかさも加わって、パワー部のみでも音質の進化を感じさせる。電源部のコンデンサーが変更されたようだが、パワー部の回路そのものに大きな変更はないようだ。他にパーツ類の選択や配線の短縮化などが施されているようだ。
EVOLUTION PREの顔と言える中央部の大型ディスプレイは部屋のどこからでも入力ポジションや音量の数値がひと目で分かる。またミューズ社製の電子ボリュームが最大のポイントで、使用真空管は12AX7が左右各2本ずつ使われている。ただ、完全に管球プリかというとそうではなく、半導体により一部の回路が補強され、その結果サウンド面でもタップリとしたゆとり感につながり、リラックスした響きを聴かせる。
アナログレコード再生システムは、2012年にイタリア・フィレンツェで創設されたゴールドノートの製品を用いた。ターンテーブル「PIANOSA」は、ベルトドライブ方式でアームはストレートパイプ、ベースは3点支持の三層構造で、曲線を活かしたしなやかなデザインがイタリアを感じさせる。MCカートリッジも同社製のもので、出力は0.5mVと高く、サウンドの持ち味としては大きなクセがなく使いやすさが特徴のようである。
フォノイコライザー「PH-10」はイコライザーカーブの切り替えに対応し、前面パネルにRIAA、COLUMBIA、DECCAのカーブがディスプレイされるユニークなもので、専用の強化電源PS-10も用意されている。
1970年前後、日本国有鉄道の時代に姿を消していくSLが名残惜しくて、SLブームが到来したことがある。その折に北は北海道から南は鹿児島まで、ボク自身もSLを追いかけ『さらば日本の蒸気機関車』として、12枚のLPレコードを制作した。それ以外にも多くのSLレコードを録音したが、その中の数枚をここで聴いてみた。
『中国山脈をゆく蒸気機関車 さらば日本の蒸気機関車(6)』では、右奥から次第に近づく旅客列車は目一杯の蒸気を使って急勾配を登り眼の前を通過して遠ざかっていく。オフからオンへ、そしてオフへと微妙な繊細感から図太いダイナミックレンジまで幅広く要求されるプログラムだが、少し大きめの音量で走らせると、大きな鉄の塊の移動感には凄まじいものがあり音楽でいうとまさにピアニッシモからフォルティッシモ、聴き手の感情を揺さぶり高ぶらせる名曲の鑑賞とはまたひと味異なったオーディオの世界、ある種の醍醐味が味わえると思う。
このレコードには、力強くダイナミックなシーンだけではなく、小鳥のさえずりや秋の虫の声など自然界の音に囲まれて走り抜けるSLの、なんとなく懐かしく情緒的な部分も含まれている。
そして、ボクとしてはSLと管球アンプにはどこか重なるような思いがあって、特にEVOLUTIONシリーズのパワーアンプは、黒い図体に黒いトランスが3個、ニョキニョキとそびえ立つような重厚感があり、赤く灯る火や発熱など、なにか繋がるような気がしている。
■イベント情報
「蒸気機関車の音を1時間思う存分鳴らす」
日時:2024年7月27日(土) 17:00 - 18:00
場所:東京国際フォーラム G507号室・トライオードブース
※ブースへの入場には整理券が必要、整理券は当日10時よりG507ブース前で配布する
(提供:トライオード)
本記事は『季刊・アナログ 84号』からの転載です。
ステレオを活用した「移動感」が特有の味わい
7月26日より開催される東京インターナショナルオーディオショウのトライオードの会場で、「管球アンプでSLサウンドを聴こう」というイベントが開催される。それに先駆け、当日予定している機材を用い、内容の一部と使用機材を紹介したい。
まずはテーマとなるSLサウンドの魅力だが、SLのサウンドをスピーカーから聴く喜びはどこにあるのか、というところから進めよう。
日頃聴いている音楽とは全く異なった音素材であり、最も異なるのはステレオを活用した「移動感」で、乗り物特有の味わいだ。ステレオ空間の中に、左右への広がりや奥行きだけでなく、動きも伴うことが最大の違いと言えよう。
SLというと汽笛がよく知られる音だが、機関車の走り出しや長い貨車を引いて山道を登る「勾配区間」のドラフトにもダイナミックで凄まじいものがある。SLが動き出す、つまり発車の時は汽笛が鳴り、高らかにドラフトが響くが、続いて吐き出す白い湯気は「ドレーン」と呼び、超低域から超高域まで実に幅広い周波数が含まれていて、再生には広い周波数レンジが必要とされる。
さらに機関車には動輪と動輪を結ぶ「ロッド」があり音が出る。レールの継ぎ目を刻む音やきしみ音なども伝わる。スピードが加われば地鳴りのような重低音になるのである。さらに遠くから聴こえる汽笛は山々に反射してエコーとなり、録音が良ければその大空間は2本のスピーカーの外側にまで広がって再生される。オーディオ機器にもこうしたSLサウンドをより心地よくしかもダイナミックに聴かせることが要求されることになる。
滑らかさやしなやかさが加味された「EVOLUTION MUSASHI」
今回のイベントで使う機材の一部をここで紹介すると、まずは広い会場で大勢の方々がダイナミックな味わい堪能するためにアンプにはパワーが必要だ。この6月に一新された100W+100W(8Ω)の「EVOLUTION MUSASHI」が使用される。
前面は大型ディスプレイに変わり、これまでのバイアス確認のための丸メーターが上面に移動している。内容として大きく変化したのはプリ部が一新されたこと。特に音量調節は電子ボリュームとなり、リモコンも使えるようになった。このずっしりと重いアルミ削り出しのリモコンはパワースイッチや、音量に併せて入力の切り替えもできるし大型ディスプレイの照度を変更するディマーも兼ねている。
ただし、今回のイベントは「EVOLUTION PRE」と組み合わせるため、EVOLUTION MUSASHIはパワーアンプとしての使用となる。前作の音質はやや力強さが強調されていたようだったが、新たに滑らかさやしなやかさも加わって、パワー部のみでも音質の進化を感じさせる。電源部のコンデンサーが変更されたようだが、パワー部の回路そのものに大きな変更はないようだ。他にパーツ類の選択や配線の短縮化などが施されているようだ。
EVOLUTION PREの顔と言える中央部の大型ディスプレイは部屋のどこからでも入力ポジションや音量の数値がひと目で分かる。またミューズ社製の電子ボリュームが最大のポイントで、使用真空管は12AX7が左右各2本ずつ使われている。ただ、完全に管球プリかというとそうではなく、半導体により一部の回路が補強され、その結果サウンド面でもタップリとしたゆとり感につながり、リラックスした響きを聴かせる。
アナログプレーヤーにはGOLDNOTEを組み合わせ
アナログレコード再生システムは、2012年にイタリア・フィレンツェで創設されたゴールドノートの製品を用いた。ターンテーブル「PIANOSA」は、ベルトドライブ方式でアームはストレートパイプ、ベースは3点支持の三層構造で、曲線を活かしたしなやかなデザインがイタリアを感じさせる。MCカートリッジも同社製のもので、出力は0.5mVと高く、サウンドの持ち味としては大きなクセがなく使いやすさが特徴のようである。
フォノイコライザー「PH-10」はイコライザーカーブの切り替えに対応し、前面パネルにRIAA、COLUMBIA、DECCAのカーブがディスプレイされるユニークなもので、専用の強化電源PS-10も用意されている。
SLと管球アンプにはどこか重なるような思いを感じる
1970年前後、日本国有鉄道の時代に姿を消していくSLが名残惜しくて、SLブームが到来したことがある。その折に北は北海道から南は鹿児島まで、ボク自身もSLを追いかけ『さらば日本の蒸気機関車』として、12枚のLPレコードを制作した。それ以外にも多くのSLレコードを録音したが、その中の数枚をここで聴いてみた。
『中国山脈をゆく蒸気機関車 さらば日本の蒸気機関車(6)』では、右奥から次第に近づく旅客列車は目一杯の蒸気を使って急勾配を登り眼の前を通過して遠ざかっていく。オフからオンへ、そしてオフへと微妙な繊細感から図太いダイナミックレンジまで幅広く要求されるプログラムだが、少し大きめの音量で走らせると、大きな鉄の塊の移動感には凄まじいものがあり音楽でいうとまさにピアニッシモからフォルティッシモ、聴き手の感情を揺さぶり高ぶらせる名曲の鑑賞とはまたひと味異なったオーディオの世界、ある種の醍醐味が味わえると思う。
このレコードには、力強くダイナミックなシーンだけではなく、小鳥のさえずりや秋の虫の声など自然界の音に囲まれて走り抜けるSLの、なんとなく懐かしく情緒的な部分も含まれている。
そして、ボクとしてはSLと管球アンプにはどこか重なるような思いがあって、特にEVOLUTIONシリーズのパワーアンプは、黒い図体に黒いトランスが3個、ニョキニョキとそびえ立つような重厚感があり、赤く灯る火や発熱など、なにか繋がるような気がしている。
■イベント情報
「蒸気機関車の音を1時間思う存分鳴らす」
日時:2024年7月27日(土) 17:00 - 18:00
場所:東京国際フォーラム G507号室・トライオードブース
※ブースへの入場には整理券が必要、整理券は当日10時よりG507ブース前で配布する
(提供:トライオード)
本記事は『季刊・アナログ 84号』からの転載です。