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平面磁界型ドライバーの特長から改めて解説

イヤホンでもこれからが “旬” !平面磁界型の魅力をハイエンドモデルで聴き比べ

公開日 2025/03/26 06:30 佐々木喜洋
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ヘッドホンやイヤホンの心臓部であるドライバーユニット。ダイナミック型、BA(バランスド・アーマチュア)型などいくつかの方式がある中、特に音質的に優れたものとして挙げられるもののひとつが「平面磁界型」ドライバーだ。英語では “Planar Magnetic(プラナー マグネティック)” で、平面駆動型、あるいは単に平面型など、さまざまに呼び習わされている。

音質が良いと言われる一方で、開発製造の難しさ、ユニット自体の大きさ等々の課題もあり、2010年代までは高級ヘッドホンでの採用が多かった。それが徐々に小型化/低価格化が進み、ここ数年で2~5万円の比較的手頃なイヤホンに搭載されるほどに普及。そしていよいよ10万円を超えるハイエンドイヤホンでも、この平面磁界型ドライバーを搭載するものが複数のブランドから登場しつつある。

このようにイヤホンでも盛り上がる気配を見せる平面磁界型ドライバー。そもそもどんな仕組みと長所があるのか、新たに登場したハイエンドイヤホンではどのように使いこなし、どのような音質に仕上げているのか。佐々木喜洋氏に、ハイエンドモデルの試聴レビューを交えつつ解説してもらおう。

 

「平面磁界型」が音質が良いと言われるワケ

高性能ヘッドホンを中心に採用されてきた平面磁界型ドライバー。今やこの流れはイヤホンにも波及しつつある。

平面磁界型ドライバーとは薄い振動板全体にコイルが配置され、その両側もしくは片側に配置されたマグネットの磁場との作用によって音を生み出すドライバーのことだ。つまり平面磁界型は振動板全域で均一に振動し、ダイナミック型では振動が中心から端へと広がる。この違いにより、平面磁界型のメリットが生まれてくる。

 

△典型的な平面磁界型振動板のイメージ図。薄い振動板に直接コイルが取り付けられ、コイルに音楽信号が流れると、周囲に配置された磁石と押し引きして振動する。振動板の素材、コイルの形状、磁石の配置方法等々、メーカーごとに設計はさまざま


まず平面磁界型ドライバーでは振動板全体が均等に振動するため、場所による不均一な振動が少ない。これにより全体的に低歪みであり、特に高音域での音質低下が生じにくい。

さらに平面磁界型ドライバーでは周波数によるインピーダンス特性のばらつきが小さい。これはダイナミック型ではコイルが一か所に集中しているため、電磁誘導の影響で高い周波数では電気の流れが妨げられやすくなり(=インダクタンスが大きい)、結果としてインピーダンスが増加するからだ。一方、平面磁界型ではコイルが振動板全体に広がっているため、この影響が少なく(=インダクタンスが小さい)、インピーダンスが安定する。

そして平面磁界型ドライバーでは振動板が軽量で薄いため、音の立ち上がりと減衰が速く、より正確な応答が得られる(=過渡特性が良い)。これにより楽器音を正確に再現しやすい。

筆者が以前、Campfire AudioのCEOであるKen Ball氏に平面磁界型のメリットについて聞いたところ、「従来型ドライバーのような音の滲みや時間的な遅れがなく、歪みが非常に少ない」と語っていた。従来の優れたダイナミック型ドライバーと、最新の14.2mm平面磁界型ドライバーのインパルス応答を比較したデータも見せてもらったが、平面磁界型の方が鳴った音がはるかに早く収束していることが示されていた。

CampfireAudio_ImpulseResponse_data
△高品質なダイナミック型ドライバー(赤線)と最新の平面磁界型ドライバー(黒線)のインパルス応答を測定したグラフ(Image:Campfire Audio)

 

このように平面磁界型ドライバーの音響特性は従来のダイナミック型ドライバーに対して極めて優れている。他方で高価になりやすいことや、鳴らしにくいということがデメリットとしてよく挙げられている。

では次に実際に製品をチェックして、これらの特性がイヤホンでどのように生かされているのかを見ていくことにしよう。

 

平面磁界型の魅力をハイエンドイヤホン4モデルから探る

Campfire Audio「Astrolith」

Campfire Audio「Astrolith」は超低域から中音域を担当する14.2mmの平面磁界型ドライバーと、高音域を担当する新開発の6mmの平面磁界型ドライバーがクロスオーバーレスで搭載されている。

△Campfire Audio「Astrolith」(オープン価格|予想実売価格:税込31万5000円前後)


14.2mmの平面磁界型ドライバーは同ブランドの過去モデル「Supermoon」のものを改良した第2世代で、シェルと一体になった音響チャンバーに格納されて半透明の美しい造形がなされている。

注目点は新設計の高音域用6mm平面磁界型ドライバーだ。これは専用設計の「PPR(Particle Phase Resonator)」と呼ばれる超小型の音響チャンバーで周波数特性を整え、極めて高い音域までフラットな特性を得ている。ケーブルとして、平たいフラット形状の「Time Stream Cable」が4.4mmと3.5mmの2種類付属している。

△半透明の筐体は内部チャンバーなどを透かして見ることができ、デザイン性も両立している


実際に手に持ってみるとデュアルドライバーモデルだがコンパクトで軽く装着感が良い。音質は驚くほど高く、従来のダイナミック型ドライバーやBA型ドライバーの音とは異なる音楽体験ができると言った方がよいだろう。ダイナミック型のようにたっぷりと空気が動き、かつBA型よりも鋭い。ベールを剥がしたように透明感が高く、あたかもヘッドホンにおけるSTAXのように音が鋭く細やかで高いスピード感が感じられる。

また、周波数特性はとてもワイドレンジに感じられ、低音が出過ぎる場合があるほどだ。これはイヤーピースのサイズで調整すると良い。高域はシャープで伸びやかながら、刺激成分は極めて少ない。これはPPRチャンバーの効果だろう。

複雑に構築された音楽を聴く際には、その音世界に圧倒されてしまうような新時代サウンドだ。

△試聴はすべて「iPhone 15 Pro Max」にDITAのUSB-DAC/アンプ「Navigator」を繋いで行った

 

64 Audio「SOLO」

64 Audio「SOLO」は同ブランド初のフルレンジ14.2mm平面磁界型ドライバーを搭載している。特徴は正確な音の調整のために「ヘルムホルツ・レゾネーター」を組み合わせた点だ。ヘルムホルツ・レゾネーター自体は新しい技術ではなく、フラスコのような形状をした空洞の容積とノズルの大きさを変えて、特定の音域に共鳴させることで音を調整するというものだ。

△64 Audio「SOLO」(オープン価格|予想実売価格:税込23万9800円前後)


加えてSOLOには64 Audio独自の空気圧を巧みに緩和する「apex coreテクノロジー」、チューブレス技術の「tia(Tubeless In-Ear Audio)」、そして「LID(リニアインピーダンス設計)」など同ブランドが誇る先進技術がすべて搭載されている。ケーブルは独自の23×25AWG 純銅ケーブルを4.4mmと3.5mmの2本同梱している。

SOLOを手に取ってみると “64” を意匠としたフェイスプレートが凝っている。とてもコンパクトで耳におさまりやすく、装着感も良好だ。

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△ブランド名の “64” を図案化したフェイスプレート
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△筐体はコンパクトで、さらりとしたマットな感触

 

音質は平面磁界型らしいハイスピードサウンドであり、打撃感が極めて鋭く、解像力もとても高い。また楽器音の音色が正確で着色感がないのが特徴だ。低音も正確で平面磁界型らしくタイトだが、リスニング目的では量感が物足りなく感じられることもあるかもしれない。高い音は突き抜けるように伸びていき、ファルセットボイスがとても美しい。

YOASOBIのような硬めの録音のポップを聴いても音が過度に刺さることなくバランスよく再生される。歌詞や打ち込みが明瞭に分かれるので音のモニタリングに向いたサウンドだ。

 

MADOO「Typ821」&「Typ622」

MADOO「Typ821」は今回取り上げるモデルの中では最も早くに発売された。チタンを削り出した高剛性のハウジングに「Ortho」と呼ばれるブランド独自の平面磁界型ドライバーをフルレンジで1基搭載している。

△MADOO「Typ821」(オープン価格|予想実売価格:税込24万4800円前後)


MADOOはデザインのこだわりがあるブランドで、Typ821ではフェイスプレートにサファイアクリスタルの “窓” を採用している。Acoustuneによるケーブルを4.4mmと3.5mmの2本同梱している。

Typ821を手に取ってみるとずしりと重く金属の塊という感じがする。デザインが美しく宝飾品のような感じだ。

△チタン削り出しの筐体に、潜水艦などをイメージしたサファイアクリスタル製の “窓” を装着

 

音質は平面磁界型らしく先鋭的で解像力が高く、音の広がりが立体的、濃密な音再現が楽しめる。低域がやや抑えめなのはSOLOと似ている。また高音域が他機種よりも抑えめなため中域重視に感じられる。特徴は音の響きが美しい点だ。女性ヴォーカルがSOLOだとややドライに聴こえるが、Typ821では艶かしく美しく感じられる。

MADOOのイヤホンは音導穴が耳道と同じ楕円形という点も特徴の一つで、それに合わせた専用イヤーピース「MDX30」が別に用意されている。Typ821のイヤーピースをMDX30に変えて試聴してみると、たしかに耳によりよくなじみ、フィット感も良い。また低音がより深く出るようになるので、Typ821の低音が物足りないという人にはおすすめだ。

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△MADOOイヤホンの楕円形ノズルに合わせて開発された別売イヤーピース「MDX30」(S/M/Lの3サイズ展開、各サイズ税込2,500円前後/2ペア)。専用設計だけあり音質/フィット感に大きく影響する

 

MADOO「Typ622」は、このTyp821の筐体素材とチューニングを変えたモデル。ドライバーユニットはOrthoのままアルミボディになり、価格も抑えられている。

△MADOO「Typ622」(オープン価格|予想実売価格:税込15万6480円前後)

 

Typ821と比べると筐体はだいぶ軽くなった一方、独特の重厚感のある音質が低域の増加でさらに重みが感じられるようになった。Typ622は廉価にしただけの下位モデルではなく、異なるチューニングで並び立つ兄弟機と考えた方が良いだろう。

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△Typ622とTyp821は、ドライバーユニットとデザインは同一で、ボディの材質とチューニングが異なる。まさに兄弟機と呼べる関係だ

 

特性に優れた平面磁界型の「使いこなし」に期待がふくらむ

今回聴いた平面磁界型の4機種はともに楽器音の歯切れが良く、解像力が高く、低域がタイトなのが共通した特徴だ。

その上でそれぞれに独自の個性がある。音楽を楽しく聴きたい人は好みによりTyp821かTyp622、正確さを重視しモニター的に聴きたい人はSOLO、平面磁界型の新たな音再現の可能性を堪能したい人はAstrolithが向いているだろう。

また平面磁界型は高音域が刺激的になりやすいので、Astrolithでは専用トゥィーターとPPRチャンバーを採用、SOLOではヘルムホルツレゾネーターや高域用フィルターを用いることで、高音域の特性を改善している。こうした工夫も今後の製品の注目点だろう。

いずれにしろどれも超がつくほど高性能である。ヘッドホンの場合と同様に、イヤホンの平面磁界型ドライバーは今後とも高性能イヤホンの一翼を担うに違いない。

 

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