12AX7と300Bを交換して聴き比べ!
知識ゼロからの「真空管交換」。“球転がし”で真空管アンプをもっと楽しもう!
まずは前段=小さい方の真空管から交換してみよう!
さて、球を取り替える、と言っても何をどこから手をつけたらよいのでしょう。やっぱり一番大きくて目立つ管を替えるといいのかな…?
否。山崎さんによれば、実は300Bのように大きくて目立つ出力管よりも、手前の小さな入力管から替えるほうが、変化の効果が大きいのだとか! 変化の比率でいうなら、入力管:出力管=10:2くらいの割合なのだそうです。入力管は増幅率が高いので、まずは前段から換えてみるのも一つの手。前段も後段も一気に替えてしまうと、何がどんな変化をもたらしてくれたのか分かりにくいので、段階を経て換えていくのがオススメとのこと。
そのようなわけで、まずは初段管の12AX7(ヨーロッパでは「ECC83」と呼ばれますが、同じです)を、いくつかのメーカーの球で聴き比べてみます。山崎さんには3本のヴィンテージ管、1本の現行品を持ってきていただきました。
そうそう、真空管を取り替える時には、必ず電源を落とすことをお忘れなく。そして、直前まで使っていた球は熱を持っているので、火傷しないようにご注意ください。
聴き比べに使用した音源は、エジプト生まれのソプラノ、ファトマ・サイードのセカンド・アルバム《カレイドスコープ》、180gアナログLP盤です。オペラ・アリアのほか、シャンソンやミュージカルやジャズの名曲まで、ダンスにちなんださまざまな歌が収められており、サイードの変幻自在な声の魅力を味わえる楽しいアルバム。この中から、ヨハン・シュトラウスIIのアリア〈ウィーン気質〉を聴き比べてみました。
その1:ユーゴスラヴィア製、1970年代のヴィンテージ管
とてもエレガントかつコクのある音色です。サイードの声の密度、オーケストラのバランスの良さがしっかりと伝わる、聴きやすい響きです。最初に聴いた1本なので、以下の真空管は、こちらを参照点としています。
その2:スロヴァキア製、JJエレクトロニクス、現行品真空管
1本目とまるで響きが変わりました! 小さな入力管1本でこんなに印象が変わるとは、正直驚きました。こちらは音像に広がりが出て、解像感が増したように感じます。歌い手が体全体で表現しているものが鮮明に伝わる印象です。現代的な音、と言えるかもしれません。
その3:ドイツ製、テレフンケン、1970年代のヴィンテージ管
ユーゴスラヴィアのヴィンテージ管よりも、やや解像度が上がった印象。上品でどこか色っぽさもある音色。全体的にバランスが良く、音の密度も感じられました。マニアの間で人気の高い管なのだとか。筆者はこちらが好みだったかも……。
その4:日本製、ナショナル、1970年代のヴィンテージ管
4本の中ではもっとも端正な響き。きちんと解像、きちんと広がる、なんとも「真面目」な仕事をしてくれる真空管。海外製品のようなクセが少なく、スキもない印象です。見方によっては個性があまりないとも言えそうですが、国産の信頼できるところでもあります。
4本の入力管を聴き比べてみて、ハッキリとそれぞれの個性と違いがわかりました。12AX7という双極管は、見た目はとても小さいけれど、どれだけパワフルに役割を果たしているかを実感します。 買ってみて使ってみるまで、(とくにヴィンテージ管は)その性質はわかりませんが、ハッキリと「変わる」ことは確かです!
前段はそのままに、後段300Bは3種類の現行モデルを聴き比べ!
続いては、大きくて目立つ出力管の交換です。中でも人気の高い300Bの球ですが、今回は3種類を聴き比べてみました(入力管はユーゴスラヴィアのヴィンテージ管にて実験)。
その1:アメリカ製、ウェスタン・エレクトリック社、300B
「EVOLUTION 300」にデフォルトで装備されている話題の逸品。1870年代からの歴史ある会社の製品で、ペアで21万円! 最新技術によって作られた真空管。帯域がとても広く感じられ、とくに高音域の伸びが鮮やかです。ソプラノの声の張りや、オーケストラの打楽器のパンチ力などがハッキリ届きます。繊細かつ華やかな音色で、音楽や演奏の隅々まで鑑賞したい人にはおすすめです。
その2:中国製、PSVANE(プスヴァン)、ノーマルの300B。
ウェスタン・エレクトリック社300Bのあとに聴いてしまったので、その差は歴然。全体的に音楽がひと回り小さく、痩せてしまった印象に。あっさりとした爽やかな響きなので、この雰囲気を好む人もいるかもしれません。またこの球だけ最初から聴いていれば、問題なく良い音ではあります。
その3:中国製、PSVANE、WE300B(ウェスタン・エレクトリック社のレプリカ)
音のきめの細かさ、音色のふくよかさが出ました。声の輪郭が浮き立ち、オーケストラの立体感も、「ノーマル」のプスヴァンよりは一段深くなった印象です。実際、筆者は日頃この球を使っていますが、音楽鑑賞の時間を豊かに過ごせています。ステップアップとしては、かなりおすすめできる球です。
実際に体験してみると、それぞれの真空管には驚くほど個性があることがわかりました。聴く音源や、自分の好みに応じて、球を替えて音色を変化させることができるのは、真空管アンプを使うことの醍醐味ですね。入力管なら、数千円から高くても2〜3万円で替えることができます。
インターネットでヴィンテージ管を探す場合には、偽物も出回っているようなので、明らかに安すぎるものは避けた方が良いそうです。自分で手を入れて工夫することこそ、オーディオの楽しみでもありますから、ぜひチャレンジしていきたいですね!