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公開日 2012/07/11 16:30

何よりも「心」を揺さぶる音をつくりたい − JiLL-Decoy association「Lining」発売記念インタビュー

世界に3台しかない〈Clarity〉でDSD制作
取材・構成/ファイル・ウェブ編集部
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ジャズやファンク、R&Bをベースにしたハイクオリティな楽曲と、高い演奏/歌唱力で人気と注目を集めている“ジルデコ”こと「JiLL-Decoy association」。今年2012年は、結成10周年というアニバーサリーイヤーで、JiLL-Decoy associationの頭文字(J/D/A)を取り、Jazz/Dance Music/Acousticをコンセプトにしたアルバム3作を連続リリース予定だ(前作「Lovely.e.p.」の発売時インタビューはこちら)。

今年4月にリリースされた「Acoustic」がコンセプトの第1弾アルバム「Lovely」(通常盤フルアルバム)、「Lovely e.p.」(配信用の“direct mix ver.”)は、楽器本来の響きを活かした音を目指し、過度なアレンジや音楽スタイルを排除。さらに、全てのプレイヤーがひとつの空間で同時に音を出すスタジオライブ録音にて収録。非常に高い評価を集めた。

7月11日から登場する、連続リリース第2弾となる新作「Lining」のテーマは「Jazz」。「What A Little Moonlight Can Do」、「My One And Only Love」、「Nica's Dream」といったジャズの名曲たち、そして80年代ポップスの代名詞・a-ha「Take On Me」のジャズアレンジなど全10曲を収録。元々ジャズミュージシャンであり、彼らが最も大切にしてきたという「Jazz」を、ジルデコならではの選曲とアレンジでスタイリッシュにカバーしている。共同プロデューサーに「東京JAZZ」のプロデューサー八島敦子氏を迎えたほか、スペシャルゲストとしてテナーサックスの名手・Eric Alexanderも参加している豪華ぶりだ。

6月13日からe-onkyo music独占配信中の先行シングル「Lining e.p.」は、フルアルバム「Lining」から4曲を抜粋したもので、“DSD-MTR mix”と呼ばれる特別バージョン。こちらは下高井戸のスタジオG-ROKSにある、世界に3台しかないコルグのDAW試作機「Clarity」を使用しマルチレコーディング・編集・ミックス・マスタリングが行われた、世界でも数少ない貴重な音源だ。配信開始以来、ダウンロードランキングで1位を獲得するなど、既に高い人気を博している。

JiLL-Decoy association/Lining e.p.
DSD版><96kHz/24bit版
【収録曲】
・What A Little Moonlight Can Do feat. Eric Alexander
・Take On Me
・Nica's Dream
・My One And Only Love feat. Eric Alexander


JiLL-Decoy association/Lining
DSD版><96kHz/24bit版
【収録曲】
・Cantaloupe Island
・What A Little Moonlight Can Do feat. Eric Alexander
・Take On Me
・The Island
・Nica's Dream
・I've Got Just About Everything
・I'm All Smiles
・Recado Bossa Nova(The Gift)
・My One And Only Love feat. Eric Alexander
・Obsession


今回、JiLL-Decoy associationのみなさんに新作「Lining」に込めた思いや制作秘話をうかがった。

   ◇  ◇  ◇   


−−− 結成10周年記念アルバム第2弾、発売おめでとうございます。今回はジルデコのルーツでもある「Jazz」がテーマということですが、タイトルの「Lining」にはどういう意味が込められているのでしょうか?

chihiRoさん:「Lining」というのは、「裏付け」とか「裏地」という意味があるんです。自分たちが今まで10年間やってきた音楽には、いろいろ要素がありますが、やっぱりジャズという「裏付け」があってのジルデコだったよね、ということで、このタイトルに決めました。

JiLL-Decoy associatio(左から、towadaさん、chihiRoさん、kubotaさん)

−−− ジャズをルーツに持つジルデコが、10年間を通してジャズ以外の音楽も取り込んできて、そこで得てきたエッセンスがまた大元であるジャズの曲に込められる…という意味で、「Lining」は10周年にふさわしい象徴的なアルバムですよね。しかも今回は、カバーアルバムというのも特徴ですよね。

chihiRoさん:はい。ジャズと言えばすごく素晴らしいスタンダードナンバーが沢山ありますよね。わたしたちはジルデコとしてデビューする前からそれぞれのメンバーがジャズのギグをやっていて、そういった曲をリスペクトしていたんです。10年間ジルデコの活動を経て色々な活動・経験をしたなかで、いままたそういうスタンダードナンバーに向かい合ってみたらどうなるんだろう?という好奇心があったんですね。それと、そういった曲を、ジルデコなりに表現することができるんじゃないかなという思いもありました。

−−− 今回は本当に多くの人から愛されているスタンダードな名曲を選んでいるので、みなさんのようにジャズをやっていらっしゃった方だと余計、曲に対する自分や他人の思い入れというのが分かるし、それを汲み取りつついかに自分たちの色を出すか、というのにものすごく心血を注がれたんじゃないかなと思うのですが。

kubotaさん:それは本当に、すごく難しかったですね。神経痛になりました(笑)。アレンジについてはまさしくそのとおりで、僕が好きなアレンジでも、他の人は「これ嫌だ」という風になってしまったら、なんだか申し訳ないというのがあって。だから曲によっては何パターンかアレンジを用意したものもありました。特に10曲目の「Obsession」は苦労しましたね。オリジナルを作ったドリ・カイミと、ダイアン・リーヴスというジャズシンガーのバージョン、どちらも大好きなので、真似になっても嫌だけど、かけ離れすぎているものも想像がつかないし…どこが落としどころなんだろうというのにすごく悩みました。

実は今まで10年間、真正面からジャズをやるのは御法度にしてきたんです。でも今回敢えてカバーでジャズを取り上げることにしたのは − ジルデコというバンドをやってきて、何となく自分たちのこと、自分たちの得意なアプローチみたいなものができてきたんですね。

僕は10年くらい前ニューヨークの音楽学校に留学していたんですが、そこで見てきたジャズというのは、常にアップデートされているんですよ。自分たちのバージョンや新しいコンセプトをどんどん生み出していく、前に進もうとする強いエネルギーにすごく衝撃を受けたし、惹かれたんです。

きっと今ジャズをやったら、「ただ上手にやりました」というだけじゃない、自分たちだけのバージョンを生み出せるんじゃないかという期待がありました。それに、そういうチャレンジングなことができたら、ここから先さらにワクワクしてバンドをやっていけるんじゃないかな、とも思ったんです。

chihiRoさん:今回は「東京JAZZ」のプロデューサーである八島敦子さんと一緒に、選曲も半分ずつくらい案を出し合って決めました。八島さんはジルデコをすごく聴いてくださっていて、「これだったらジルデコがすごく映えると思うんだけど」とか、アレンジを聴いて「この曲がこんな風になるのね、ジルデコっていいね!」ということを言ってくださったので、すごく楽しかったです。

towadaさん:選曲してくださる方がメンバー以外にいることで、リクエストをいただいてやる、という感覚のなかでできたので、本当に楽しかったですね。


−−− 今回はジャズのスタンダードナンバー以外にも、80年代を代表する曲である「Take On Me」もカバーしていますよね。原曲はパキパキしたシンセサイザーサウンドが印象的ですが、これがスウィングジャズ、しかも5拍子の曲になるというのが面白かったです。

chihiRoさん:元々ジルデコって、私がポップスのシンガーソングライターとしてやっていた時の曲を、towadaやkubotaがアメリカで聴いてきたジャズのアレンジにしてみるというところから始まっているので、これは絶対面白いものになると思っていて。私は学生の頃スカとかミクスチャー、ロックばかり聴いていたんですけど、その時好きだった曲を「この曲とか全然ジャズって感じしないけど、多分kubotaに投げたらどうにかするだろう。しかも結構良いだろうな」って(笑)。

kubotaさん:最初chihiRoから「これ3拍子でやったらすごく綺麗な曲にならない?」と言われてて、「ああ、なるな」と。でも、なるな、と思った時点で俺の中ではもう「終了」って感じだったんです(笑)。そこから自分なりに曲に入り込めるようなワンポイントを探していたときに、意外と5拍子って気持ちいいんじゃないかな、これならイケるな、と。絶対歌いづらいだろうなとは思いましたけど(笑)。

chihiRoさん:歌いづらかったです(笑)。

kubotaさん:でもその、歌いづらいけどなんとか歌ってやるっていう、その爆発力みたいなものを期待して、っていうところですかね(笑)。

カバー曲をやるときに心がけているのは、“準オリジナル曲”と言えるくらいまでのクオリティにまで到達するためにはどうしたらいいんだろう、というところですね。それと、単純に“壊す楽しさ”っていうのもあります。有名な曲なんかは壊すのは怖いですけど、曲をメロディーとコードに分解した丸裸の状態 − 骨組みを眺めながら「この曲のいちばんオイシイところってどこだろう?この曲をを好きな人はどういうところがいちばん好きなんだろう?」って考えながら、骨組みを組み替えていく楽しさ。その再構築の仕方で、オリジナリティを出したいなと思っています。


−−− 歌う上で難しかった点はありますか?

chihiRoさん:そうですね、とにかく練習ばっかりしてました。英語の歌詞なので、英語圏の方達にもちゃんと通じる英語でやりたいなと思って、お風呂のなかで歌詞を毎日朗読したりとか、自分で歌ったものを聴いて、ここはちょっと外国人ぽく聞こえないなと思うと調べたりとかしましたね。

それと、日本語圏の方で英語の歌詞を聴いて、どんなことを歌ってるか分かる人というのはそんなにはいないと思うのですが、そのなかで歌詞の良さを伝えるためには、どのくらい感情を込めて歌ったらいいんだろう? というのは試行錯誤しました。

あとは、自分が書いた歌詞ではないなかで、どれくらいオリジナルさを出せるだろう? 自分の声ってどういうものなんだろう? っていうことも、すごく考えましたね。

4曲目の「The Island」なんかは、「エロイ〜〜!」って身悶えるような歌詞で(笑)、サラ・ボーンが歌うオリジナルを聴いてもすごく成熟しているので、最初は私が歌うにはちょっと早いかなという印象だったんですよ。だから、自分がどういう主人公になって歌おうかすごく考えて…31歳の私が、そのまんまの姿で歌えたら何かかたちになるのかな、そこで私のオリジナルが出せるのかな、って思いました。

−−− 確かに歌詞を読むと本当に濃厚なオトナの恋という感じなんですけど、chihiRoさんの歌を聴くと、ねっとりベタベタではなくて、ムーディーさのなかにも洗練された雰囲気があるなと思いました。

今回はテナーサックスのエリック・アレキサンダーさんが参加されているのも目玉のひとつですよね。エリックさんと一緒にやることになったきっかけはどんなものだったのですか?


テナーサックスのエリック・アレキサンダーさんを囲んで。和気藹々とした雰囲気が伝わってくる

kubotaさん:90年代から活躍されている素晴らしいテナーサックス奏者で、彼の演奏はずっと聴いていました。すごく芯のとおった、いい意味で正統派な演奏をされる方なので、そういう方を招き入れたら面白いものができるんじゃないかなと思って。単純に彼とセッションしてみたいというのもありましたし。それで、たまたまレコーディングのタイミングと彼が来日するタイミングが近かったので、ぜひ一緒にやってみましょう、ということになったんです。

towadaさん:一緒にやってみて、もっと緊張するかなと思ったんですが、逆に楽になるような感じでしたね。ものすごく、引っ張ってくれるというか。

chihiRoさん:エリックさん自身のプレイもすごいんですが、周りのミュージシャンがメキメキといいプレイを連発するんですよ。そういう周りを引っ張り上げる力っていうのも「あ、こういうのがすごいプレイヤーなんだな」って思いました。

kubotaさん:譜面を出すと「ここはもっとこうした方がいいんじゃない?」とかアイディアも出してくれて…積極的に「もっと良くしよう」って関わってもらえたのも、すごく嬉しかったですね。エリックさんと一緒にやれたのは、本当に貴重な経験でした。

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